北海道地すべり学会・研究発表会 ― 2021/01/24 10:24
2021年1月22日(金)、令和2(2020)年度 (公社)日本地すべり学会北海道支部・北海道地すべり学会 特別講演および研究発表会が、オンラインで開かれました。
今回は元日本地すべり学会会長二人の方の特別講演と5件の研究発表がありました。
檜垣大助氏(日本工営):東北日本における氷期の斜面地形形成と近年の土砂移動
北上山地の地形は、山頂緩斜面、高位谷頭凹型斜面、低位谷頭凹型斜面、平滑尾根斜面、山麓緩斜面、崖錐、沖積錐などから形成されています。テフラは十和田カルデラ、秋田駒ヶ岳、岩手山スコリア、阿蘇4,洞爺などが分布していて、周氷河環境を示すテフラのインボリューションが見られます。
山麓緩斜面は径10cm以下の礫からなり、1万5千年前、3万5千年前の腐植土を挟んでいます。最終氷期よりも古い時代の山麓緩斜面堆積物もあり、約10万年で堆積物の厚さは8m程度です。完新世になるとウォッシュ的堆積物が見られます。段丘面を覆うように緩斜面堆積物が分布し、その緩斜面堆積物が、基盤岩が形成する段丘面の肩部を削っているように見えます。
図1 段丘堆積物と山麓緩斜面堆積物(Higaki,D.,1992より)
下の水平な層が段丘堆積物で、その上に緩斜面堆積物が載っています。この図では、緩斜面堆積物は基盤岩を削っていません。
約5千年前以前に土石流が頻発していて、現在の温暖化が進んだ場合の姿を示しているようです。
2016年の台風10号では北上山地東部で土石流や土砂流が多発しました。渓岸や河床の侵食が進みました。その素因としては、周氷河作用で山地の地形が平滑化されていたこと、滑りやすい場が形成されていたことなどがあげられます。
八木浩司氏(山形大学):空から見た全国の地すべり・変動地形(活断層を含む)
八木氏は最初、防衛大学に勤務しその後、山形大学に移りました。防衛大学校時代、講義用の資料を収集するために、自衛隊の飛行機(場合によってはヘリコプター)を使って分かりやすい斜め空中写真を撮影しました。その後の写真を含めた空から見た地すべりなどの地形を紹介しました。
鳥海山、月山、船形山、白山の西の甚之助地すべり、湯の谷川地すべり、青森県の十二湖、長野県の青木湖、御嶽山の伝上川上部崩壊、2004年・中越地震の東竹沢地すべり、2008年・岩手・宮城地震の荒戸沢地すべり、栗駒山東斜面・ドウゾ沢・産安沢川、赤石岳の百間平・広河内岳・烏帽子岳・知床の三ッ峯の重力性山体変形(二重山稜)、東日本大震災後に発生した湯ノ岳断層、富良野盆地西縁断層、国府津・松田断層、市ノ瀬台地、飯山の活断層、中央構造線活断層帯、山形盆地西縁活断層帯、鳥海山南西麓断層、横手盆地の千屋断層、山形県の山辺断層、新潟県の鳥越断層、久住高原の万年断層などを写真で紹介しました。
最後はネパールのセティ川上流の土砂災害です。2015年に発生したゴルカ地震でアンナプルナIV峰の西壁で岩盤崩落が発生し、セティ川に流れ込んだ土砂が土石流となって流下しました。
この写真集は、来年あたり出版されるそうです。
研究発表で興味深かったのは、渡邊達也氏ほかの「同時多点GNSS観測で捉えた海岸地すべりの複雑な挙動」です。GPS計測器を活動的な浜中町の後静海岸地すべりに設置し、約2年間地すべりブロック内での土塊の移動を追ったものです。地すべりが一気に活動する様子が5回捉えられ、地すべり末端で海岸侵食が激しい場所に向かって滑動する様子が捉えられました。
なかなか、お得な講演会でした。