2025年度 講演会・研究発表会(2回目) ― 2025/11/21 15:30
2025年11月11日(火)午後1時半から午後4時半まで、日本地すべり学会東北支部主催の表記講演会が開かれました。
Teamsで視聴しました。
プログラムは以下のとおりです。
・支部長挨拶・趣旨説明:支部長 森口 周二氏
・外里(とざと) 健太 氏(八戸工業大学 工学部工学科):広域における 3次元斜面安定解析について
・山崎 孝成 氏:二次元安定解析の諸問題-c、φの決定・フェレニウス法と非円弧すべりほか-
・柴崎 達也 氏(国土防災技術(株) ):すべり面強度の温度依存性が地すべりの安定性に及ぼす影響に関する議論」
・総合討論
柴崎 達也 氏、渡辺 修氏(東北支部事業企画)
<外里健太氏>
斜面安定解析には、極限平衡法、有限要素法などの数値解析、統計的・確率論的手法があります。
極限平衡法は滑動力と抵抗力を計算し安全率を求めます。その場合、無限長斜面安定解析、二次元斜面安定解析、三次元斜面安定解析があります。
二次元斜面安定解析では、断面を土柱に分割して計算します。計算方法には、フェレニウス法、ビショップ法、ヤンブ法、スペンサー法、モルゲンシュタイン&プライス法があります。
試行錯誤で臨界すべり面を決定する臨界すべり面法があります。これは、最適化問題です。
三次元斜面安定解析は、地すべりをブロックに分割します。すべり面形状は球面、楕円体、任意の形態などです。計算方法は、ホフランド法、ビショップ法、ヤンブ法などがあります。この中で、ホフランド法は、側面の力を無視しています。
広域斜面安定性評価についてです。
斜面崩壊としては土石流、地すべり、崖崩れがあります。近年、時間50mm以上の降雨が1年当たり約2.9回の割合で増加しています。
釜石市では2017年に林野火災が発生し、2018年にUAVによる地形計測が行われていました。さらに、2019年の台風19号の豪雨の後にUAVによる地形計測が行われました。この二つのデータの標高差分解析を行いました。
降雨データを用いて浸透流解析、地表流解析を行い、ホフランド法で三次元安定解析を行いました。地表水の浸潤面深さ、間隙水圧を設定しました。
斜面形状パラメータを用い、すべり面は楕円体で長軸方向をすべり方向としました。
地形は1mメッシュで、これに地質パラメータと降雨強度を入れ、地形図上に安全率を表示しました。臨界すべり面を探索し、ヘイズ最適化を行い、モデルを作成しました。
単純な平面斜面の場合と実地形の場合の検討を行いました。地質パラメータは空間的に一様としました。参考にしたのは、八戸地域地盤情報データベースです。
八戸地域の25.5km✕29.0kmの区域について、地下水位と基盤面の深さを設定しました。データベースの8割を学習データとし2割で検証を行いました。
安定解析結果には、地下水位の有無が影響します。また、強度パラメータの精度、データの粗い細かいなどが影響します。
<山崎孝成氏>
地すべり学会支部では2001年に地すべり面の強度決定法に関する研究を行いました。
すべり面深度の1/10を粘着力とすることの実務上の問題点について述べます。
日本では、地すべり安定解析でフェレニウス法が使われますが、海外では使われていません。理由は、フェレニウス法では安全率が必ず小さくなるからです。また、非円弧のすべりに使うべきではありません。負圧が発生するからです。
地すべりの横断型を考慮すべきです。地すべりの幅(W)とすべり面深さ(D)の比(W/D)をチェックすることです。一般的な地すべりでは、この値はほぼ10と考えて良いです。この値が10を越えるとすべり面の側壁の抵抗力が無くなります。
地すべり安定解析の安全率(F)とは、F=(すべり面に沿って発揮されるせん断強さ)÷(すべり面に沿う滑動力)で表されます。分子はスカラー量で、分母はベクトル量です。アメリカで用いられている安全率も(せん断強さ)÷(せん断応力)となっています。鋼管杭の設計式も(杭のせん断強さ)÷(杭の抑止力)となっていて、1996年に右城氏がこのように定義しています。
フェレニウス法では安全率は常に小さな値となります。7%程度小さな値となることが一般的で、15%も小さくなることもあり得ます。さらに、フェレニウス法では排水工を検討する場合、水位低下による安全率を過大に評価してしまうので、安全側であるとは言えません。
すべり面の粘着力(c’)と せん断抵抗角(φ’)を決める場合、すべり面深さの1/10を粘着力としc’-φ’図から せん断抵抗角を求めることが行われています。この根拠となっているデータは吉岡・伊藤(1971)の論文で、吉岡・伊藤は「地すべり深さに関係がなく、ある幅をもって一定のようであり、c=1.6〜2.6tf/m2の間に80%が分布」と書いているそうです。
河川砂防技術基準に参考表として、すべり面層厚の1/10を粘着力とすることが採用され、1997年以降はすべり面層厚が25m以上の場合は、2.5tf/m2とするとされました。
粘着力と せん断抵抗角の設定方法は、φ’を重視するのが良いです。水位低下を過大に評価しないからです。リングせん断試験や繰り返し一面せん断試験の値も参考に決定するのが妥当です。
近似三次元安定解析では、断面積で重み付けをして安全率を算出します。この場合、c’、φ’は、どの断面でも同じ値を用います。
ボーリングの地下水位は、すべり面付近のみの水圧(水頭)を測定するようにして、自由地下水と被圧地下水を区別することが大事です。
<柴崎達也氏>
寒候期に地すべりが発生することがあります。
スメクタイトを含むすべり面粘土では、低温で強度が下がります。この強度の減少はリングせん断試験で確かめられました。粘着力は変わりませんが、せん断抵抗角が低下します。
新潟県の伏野(ぶすの)地すべりは、すべり面深度が5mほど、幅50〜70m、奥行き300mの地すべりで、側壁の影響(縁端効果)が大きく効きます。気温が低下しはじめる秋口に動きます。積雪が4mほどになるので積雪荷重による側壁の土圧が増加することと雪のサイドフリクションが効いてきて積雪期には動きが止まります。
側壁の土圧を考慮した安定解析では、3〜16%ほど安全率が異なってきます。
火山岩地帯の山体崩壊と大規模地すべりについてです。
雲仙の眉山が1792年に山体崩壊しました。熱水変質によってスメクタイトが生成していました。
富士山の御殿場岩屑なだれやハワイ島の巨大斜面変動などがあります。
大変位せん断試験では温度を上げると強度が低下します。熱圧化という現象です。カルシウム型ベントナイトで顕著で、カオリン粘土では強度は低下しません。
1888年の磐梯山の山体崩壊は、等価摩擦係数が0.225(12.7°)です。シーバートほか(1987)は、山体崩壊のタイプを 1)マグマ噴火を伴うベズイミアニ型、2)火山性地震と伴う磐梯型 に分けています。すべり面を形成する粘土は温度上昇によってひび割れます。ナトリウム型ベントナイトは温度上昇によってサラサラになります。
鳥海山の象潟岩屑なだれ、蔵王火山の酢川泥流、湖底堆積物の上に噴火した八幡平火山の巨大地すべり、吾妻火山、安達太良山の池ノ平付近の熱圧化、浅間山の鎌原土石なだれなどの例があります。
<感 想>
非常に興味深い講演でした。
安定計算のフェレニウス法の問題点は、申 潤殖氏が「地すべり工学−理論と実践−」(山海堂、1989)で指摘していたことです。
すべり面の粘着力とせん断抵抗角を設定する場合、地すべり層厚からc’を決め、c’-φ’図からφ‘を決める方式の根拠は、私も大分探したのですが見つかりませんでした。データをまとめた吉岡・伊藤の見解と異なる考え方で決められたという話は、ちょっと衝撃でした。
すべり面粘土の温度による性質の変化が地すべりの活動性に効いてくることが、実験により確かめられたのは重要と思います。
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