「原発賠償の行方」2011/12/05 11:38


井上 薫「原発賠償の行方」(新潮新書,2011年11月)

 今回の福島第一原子力発電所事故の賠償はどういう法律的な枠組みで行われるのが妥当なのかという話です.今,政府が進めようとしているやり方は,法律に則っていないということです.
 この本で指摘されている問題点は納得できますが,じゃあどうすれば良いのかについて法律家としての提案がないのが残念です.

 今回のような原子力発電所の事故に対しては,「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法:1962(昭和37)年施行)があります.
 その第1条は,「この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」となっています.つまり,被害者を保護するだけでなく,原子力事業が健全に発達するようにすることがこの法律の目的です.

 原賠法第3条1項では,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係わる原子力事業者がその損害を賠償するの責めに任ずる」となっています.この条文は,故意か過失かに関係なく責任を取る「無過失責任」を規定したものなのだそうです.
 一方,原発事故の法律問題は民法の「不法行為」に該当します.民法709条では,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」となっています.つまり,わざとやった場合や過失で事故を起こした場合でなければ責任はないと言うことです.「過失責任の原則」と言うそうです.

 もう一つ重要な指摘として,「過失相殺」があります.原子力発電所を誘致したことによって地元は利益を得てきたので,損害の全額が保障されないことがあり得ると言うことです.法律的には考慮すべきことだそうです.

 そのほか,例えば東京電力が破産しても電力供給が止まることはない,株主代表訴訟に対処するには支払い義務があるかどうかの法的根拠を示さなければならない,浜岡原発の停止を菅首相が要請したが法的根拠はない,東電に融資していた金融機関に債権放棄を求めるのは違法である,原発事故の国際賠償に関する三つの条約のどれにも加盟していない日本は,外国の裁判所の判決で賠償金額を決められてしまう,賠償に不満な場合,裁判所は使いかってが悪いので紛争審査会が重要である,と言ったことが書かれています.

 今回の事故に対処する際,法律的に適切な手続きがなされていないことが良く分かります.このことが,将来に禍根を残さないと良いのですが.

放射能からの避難区域は年間20ミリシーベルト2011/12/16 09:35

 2011年12月15日に内閣府の有識者会議「低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループ」(共同主査:永瀧重信・長崎大学名誉教授,前川和彦・東京大学名誉教授)が報告書をまとめました.その中で,避難区域の設定基準,年間20ミリシーベルトは妥当であるとしています.ほかの発がん要因と比べ低リスクであるとしています.(以上,朝日新聞2011年12月16日朝刊)
 
 今回事故を起こした原子力発電所から離れた地域での放射線量は,おおむね1時間あたり0.05マイクロシーベルトです.例えば,<http://monitoring-hokkaido.info/>を見ると分かります.ただし,このマップの放射線量の単位は,1時間当たりのマイクログレイ(μGy/h)です.
 0.05マイクロシーベルトを年間の量に直すと0.44ミリシーベルトです.つまり,今回の報告書は,「もう通常の環境に住むのは諦めてくれ」と言っていると私は受け取りました.「ほかの発がん要因に比べ低リスク」と報告書では書いてあるようですが,もっと納得できることを言って欲しいと思います.喫煙,肥満,野菜不足や受動喫煙などと比べてのことだそうです.これは,もう言い古されたことですが,たばこや肥満などはその人が決めれば回避できることです.それと今回の放射能汚染を同列に置いて,正式の報告書に書くという神経が分かりません.

 少なくとも,放射能に怯えて暮らしている人たちの信頼を,政府はまた失ったと思います.

河田惠昭氏の講演「3.11後の北海道の津波防災」2011/12/16 11:18

 今回の河田惠昭(かわた・よしあき)氏の講演は,第1部「東日本大震災と復興事業」,第2部「これからの地域防災力について」の2本立てで,午後2時から5時までの長丁場でした.
 主催は建設コンサルタンツ協会北海道支部で,札幌のホテルの大広間一杯の300人弱の方が参加しました.


講演する河田惠昭氏

 第1部「東日本大震災と復興事業」
 東日本大震災の復旧の現状は,避難者が震災直後の約47万人から7万1千人強,居住地近傍の散乱瓦礫は撤去完了,主要なライフラインはほぼ復旧,など復旧は進んでいます.
 7月末には復興基本方針が決定され,11月はじめには復興庁設置法案が国会に提出されました.河田氏は「東日本大震災復興構想会議」の委員で,中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の座長です.復興構想会議は復興庁が発足した時点で「復興事業推進委員会」となり,事業の進捗状況をモニタリングします.約10年継続する予定です.
 専門調査会は2012年夏に最終報告を提出することになっています.その中では,1)首都直下地震の見直し,2)東海・東南海・南海三連動地震の対策,3)2011年台風12号の被害など広域的な対応が必要な災害について議論します.

 河田氏は,これまでの研究過程でいろいろな用語をつくってきました.
 1988年には「減災」という言葉をつくりました.ソフト・ハードの防災対策,災害時のマネジメントにより社会の防災力を向上させるという意味です.
 1995年には「複合災害」,「2003年には「スーパー広域災害」,「スーパー都市災害」ということを提起しました.今回の震災では首都圏で510万人の帰宅困難者が出ました.

 今回の震災の特徴をいくつか挙げると次のようなものがあります.
 釜石市の湾口防波堤は,6mの津波に対応していました.ハザードマップも整備されていました.これらが逆に安心材料となって避難の遅れが出た可能性があります.また,消防署員や民生委員など,住民の安否を確認していた人が360人ほど亡くなりました.
 釜石沖には海底水圧計(津波計)2基とGPS波浪計1基があり,津波の高さを観測しました.気象庁ではこれらのデータで当初予想の津波の高さを修正しましたが,地震により電源が途絶え現地には伝わりませんでした.験潮所の記録はほとんど取れていなくて,5波,6波が来ているはずですが実態は不明です.
 将来予想される南海地震では大阪湾などの内海に津波が入ってきます.波が重なってより大きな波となることが予想されます.
 今回の震災では地震による液状化で建物の杭の抵抗力がなくなり,鉄筋コンクリート構造物が津波でひっくり返されました.津波避難用の建物の基礎構造を考えないといけません.
 今回は午後の,日のある時間帯に地震が発生しましたが,季節や時間帯を含めて防災対応をどうするか考える必要があります.
 復興特区が考えられていますが,既得権をどう保障するのかを考える必要があります.

第2部「これからの地域防災力について」
 防災体制の基本は,自分の命は自分で守る(自助),まちの安全はみんなで守る(共助),自助,共助でできないことをやる(公助)です.その割合は,7:2:1です.今回のような大災害では自治体などは役に立ちません.この場合のリーダーの条件は,専門能力を持っていること,いろいろな人と提携する能力を持っていること,それに人間性です.そういう意味では高齢者リーダーが重要です.また,長丁場で継続的に行うことが必要です.その場合,定番のメニューのほかに進化メニューを加えて目標をつくって到達点をはっきりさせる工夫が必要です.

 地域の誇りを持つことが大事です.例えば,大阪府岸和田のだんじり祭りは,岸和田に住み続けていないと参加できません.そのために若い人が他所へ出て行かないという効果があります.
 2009年台風18号の教訓,2011年台風12号の教訓などをくみ取る必要があります.例えば,テレビでは被害が出ると報道しますが,これから被害が発生する可能性があるという報道は弱いように思います.和歌山県の串本などは,南海地震が起こると5分で津波が来ます.こういう情報をどれだけ早く伝えられるかが大事です.
 奈良や京都は活断層型の地震はないと思われています.北海道などは梅雨や台風が大型化してくる可能性があります.

 災害を減らすには,学び,練習し,身についたかどうかを確かめる,という研修が必要です.

 このほかにもたくさんの話がありました.気迫のこもった講演で,考えを深める助けとなる内容でした.


2011年 地すべり技術講習会「現場に役立つ地すべり事例の紹介」2011/12/16 11:22

 地すべり学会北海道支部技術講習会の報告です.

 今回は,講習会のタイトルと内容がちょっと違っていました.特に興味深かったのは森 淳子氏による「周氷河作用と地形」の話でした.
 調査をしていると地すべり地形の特徴を持っているのに地すべり移動体がない地形,頭部と側部は地すべりのような地形なのに末端がどこか判別できない地形に遭遇します.
 また,馬蹄形の地形の中に岩塊が流れたかのように散在しているというのもあります.これは,北海道だけでなく山形県や静岡県北部などでも見られます.このような岩塊流と考えられるものは中国山脈からも報告されています.
 というわけで,地すべりを扱う場合,周氷河地形の知識を持っていることは,かなり大事なことだと思います.

 講演は次の方々でした.
 八島隆志氏(北海道土質試験協同組合):スメクタイトとX線回折
 森 淳子氏(北海道大学低温研究所):周氷河作用と地形
 渡邊 司氏(株式会社シン技術コンサルタント):空中写真判読と地貌図


写真1 講演する八島氏

【八島隆志氏:スメクタイトとX線回折】
 スメクタイトというのは,モンモリロナイトやサポナイトなどの粘土鉱物の総称です.層状珪酸塩鉱物で2:1型構造をとり,層電荷が0.2-0.6のものをスメクタイト’族’と言います.その中に鉱物’種’としてモンモリロナイト,バイデライト,ノントロナイトやサポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイトなどがあります.
 これらの種を同定することは通常の定性X線回折では困難です.ですから土木分野では,水を吸って膨張する性質を有する膨潤性粘土鉱物をスメクタイトとして一括して取り扱う場合が多いのです.

 土木工事でいろいろと問題となるスメクタイトを見分けるには定性X線回折が最も有効です.粘土鉱物の同定のためには粉末試料を水ヒ(水簸:固体粒子をその大きさ別に分けること)し,2μm以下の粒子を抽出して,その試料でX線回折を行います.X線の回折強度の強いところでそれぞれの鉱物特有のピークが得られます.このピークの位置(層状のシートの間隔)で粘土鉱物の同定を行います.スメクタイトは2θが6°(シート間隔15Å)付近にピークが出ます.緑泥石も同じようなピークをもちます.
 スメクタイトと緑泥石を見分けるのには,エチレングリコール処理を行いX線回折をします.すると,スメクタイトの場合はピークの位置が5.2°(シート間隔17Å)付近に移動します.

 スメクタイトの含有量の評価は,「多い」,「中位」,「少ない」といった程度です.定量評価にはメチレンブルー試験,CEC試験,定量X線回折が用いられます.

 CECというのは陽イオン交換容量のことです.土や粘土鉱物の粒子が周辺の水の中にあるナトリウムやカルシウムなどの陽イオンとつながるマイナスの手の本数のことです.
 CECが大きい鉱物としてはスメクタイトのほかにバーミキュライトや沸石族があります.したがって,スメクタイトの含有量評価にCECを利用する場合は,X線回折によってどんな鉱物が入っているか同定を行っておく必要があります.

 定量X線回折は比較的正確に含有量の評価ができますが,手順が複雑で費用がかかります.

 スメクタイトにはカルシウム型とナトリウム型があります.2価の陽イオン(カルシウムやマグネシウム)と手を結ぶのがカルシウム型で1価の陽イオン(ナトリウムやカリウム)と手を結ぶのがナトリウム型です.ナトリウム型スメクタイトの方が膨潤性が大きくなります.この判定は試料を薬品処理してX線回折をすることでできます.

 X線回折で堆積物中の含有粘土鉱物の種類とその量比を測定することによってその堆積物の供給源を推定することが可能です.


写真2 講演する森氏

【森 淳子氏:周氷河作用と地形】
 周氷河環境と言うと大陸氷河などの周辺のこと思われている場合がありますが,そうではなくて「土壌,岩石の凍結・融解が地形形成に影響する環境」を言います.このような環境ではソリフラクションなどの周氷河作用が働き周氷河地形が形成されます.土や岩石が凍結てし凍上し,融解して沈下すると言うことを繰り返すことによって独特の地形をつくります.全陸地面積の25%が周氷河環境にあります.

 北海道では雪の積もらない道東が最も地面の凍結深度が大きくなります.これに対応するのが積算寒度です.積算寒度というのは,「ある期間の日平均地表面温度が0℃以下の場合,その温度の総和の絶対値」のことです.地表面温度を正確に測るのはむずかしいので日平均気温で代用することが多いです.ただし,この場合積雪による保温効果は考慮されないことになります.凍結期間の積算寒度を凍結指数と言います.凍結指数からその地点の地面の凍結深を推定できます.

 凍土には,冬に凍結した分が夏に融解する季節凍土と2年以上続けて凍結する永久凍土とがあります.永久凍土というのは2年続けて凍結した場合ですから,季節凍土になったり永久凍土になったりと言うことがおきます.
 凍結・融解は日周期のものと年周期のものがあります.

 岩石が凍結すると凍結破砕が起きます.これは熱収縮によって引張亀裂ができることと,もともとあった割れ目に浸入した水が凍結するときの圧力によって割れ目が開口する場合とがあります.
 軟岩や土の場合は凍上が起きます.また,熱収縮によって割れ目が形成されます.

 凍上というのは,土が凍結して地表面が隆起する現象ですが,この時重要なのは,地面の下の凍結していない部分から水が吸い上げられてアイスレンズを形成することです.土の中では凍った氷に層の下に不凍水の層が出来て氷が析出していきます.この不凍水層はシルト以下の細粒土で形成され,砂以上の粗粒土では形成されません.これが凍上しやすい土質を決めています.
 凍上する条件は,1)地面の凍結が起こる温度になること,2)凍上性のある細粒土を含んでいること,3)水分を含んでいること,の3つです.

 凍上に伴って凍結淘汰が発生します.凍結・融解によって土や岩塊が水平方向,鉛直方向に移動します.上下方向では逆級化構造となり粗いものが上になります.大雪山で見られる構造土が典型的なものです.

 斜面上で凍結・融解が起きるとソリフラクションが発生します.凍上するときには斜め上に移動し,融解で沈下するときは鉛直に移動するので次第に斜面下方に移動していきます.ソリフラクションの特徴は,平面で土砂が移動すること,移動する土砂の厚さは,厚くて3m程度で一般には1m以下と薄いことです.

 周氷河地形であると確実に言うためには,地温環境を調べる必要があります.石の下に温度センサーを置いて地温を計測するのが簡便です.


写真3 講演する渡邊氏

【渡邉 司氏:空中写真判読と地貌図】
 空中写真や地形図で行う地形分類の目的は,地形・地質や土砂災害との因果関係をつかむ,土砂災害の要因・発生箇所の予測を行うことです.

 地形は高いところから低いところへと形成されます.斜面内の地形現象は高いところに履歴を示す地形形状があり,低いところに結果としての地形種が存在します.地形を把握するには過去の生いたちを想像することが重要で,海水面の変化や火山活動などといった背景を知っておく必要があります.

 地形判読で最も重要なことは,谷と尾根を記入することです.いろいろな地形種はこの二つの間にあるからです.次に,斜面などの遷急線と遷緩線を記入します.この二つで地形判読の大半を終了と考えていいです.
 リニアメントは水系異常,山稜高度の急変点,同一方向の斜面の並び,地形凹地の連なりなどのことです.地質的な弱線や組織地形などを示している可能性があります.
 そのほか,山頂緩斜面,崩壊地,地すべり,ガリー,沖積錐や崖錐,扇状地,山麓緩斜面,段丘などの地形を読み取ります.

 地貌図というのは,地形を誇張して表現することにより様々な微地形を可視化できるようにした図面です.地すべり地形の抽出などの威力を発揮します.

【参考図書】
 今回の講演に関連した本を挙げておきます.私がお勧めと思うものです.このほかにも,参考になる図書は沢山あります.

☆吉村尚久編著,2001,粘土鉱物と変質作用.地学団体研究会.
*粘土鉱物学の基本的なことから測定の仕方,野外現象についてまで丁寧に幅広く書かれています.

☆須藤俊男,1974,粘土鉱物学.岩波書店.
*名著.現在は古本屋で探すしかないようです.

☆H.M.フレンチ著・小野有五訳,1984,周氷河環境.古今書院.
*周氷河現象について日本語で読める貴重な教科書です.この本の3訂版である The Periglacial Environment,2007(ペーパーバック版) は4,700円くらいで手に入ります.

☆武田裕幸,今村遼平,1976,建設技術者のための空中写真判読.共立出版.
*空中写真判読の基礎から判読方法,応用例まで書かれたものです.

☆鈴木隆介,1997−2004,建設技術者のための地形図読図入門 第1巻ー第4巻.古今書院.
*これも名著です.最低,第1巻だけでも真剣に読むことをお勧めします.
 



北海道の地震・津波・噴火2011/12/18 11:51

 2011年12月16日(土)に北海道大学学術交流会館で開かれた北海道資源・素材フォーラムです.講演は次の各氏でした.

藤井義明氏(北海道大学工学研究院):「自然はやんちゃ」
笠原 稔氏(北海道大学理学研究院):「北海道の地震」
西村祐一氏(北海道大学理学研究院):「北海道の津波」
宇井忠英氏(環境防災総合政策研究機構):「北海道の噴火」

 それぞれ,市民の方も対象とした分かりやすい話でした.ただ,会を進行し総合討論の司会を務めた藤井氏と一部の参加者で講演会に期待するものが違っていました.3.11後の状況で,このようなタイトルで市民向け講演会を行う難しさを感じました.

写真1 藤井氏

【藤井義明氏:自然はやんちゃ】
 地球規模の「災害的」事象の概観です.
 地球の歴史の中で確定的な事象がいくつかあります.
 プレートテクトニクスは40億年ほど前に始まり,大陸の集合・離散を数億年単位で繰り返す原動力となってきました.この運動は地震や噴火の原因であると同時に,海洋大循環,大気大循環,気候変動,生物進化に大きな影響を与えてきました.
 気候変動は,天の川銀河の中での太陽系の位置によって決まる数千万年の周期,ミランコビッチサイクルによる数万年〜11万年の周期があります.周期的でない気候変動の要因として二酸化炭素濃度の減少があり,5億年前以降地球の気温は低下し続けてきました.また,太陽の進化は地球の気温上昇の原因となっています.
 地球は数度,全球が凍結したと言われています.この全球凍結は生き残った生物の大繁栄を生む原動力となりました.

 確率的な事象として地震があります.これまで記録に残っている地震の最大規模は,マグニチュード9.5の1960年のチリ地震です.恐らく,これを超える規模の地震は起きないだろうと思われます.
 火山の破局噴火としては7.4万年前のスマトラ島トバ火山の噴火があります.噴出物体積は2,8000立方キロメートル,火山爆発指数(VEI)は8.4でした.日本では7,300年前(BP)の鬼界カルデラがVEI7で最大規模の噴火でした.南九州の縄文文化を壊滅させたと言われています.
 小惑星や彗星の地球への衝突も確率的事象です.恐竜を絶滅させた白亜紀末の隕石衝突は1億年に1回程度の確率と言われています.2029年4月13日にアポフィスという名の小惑星が通信衛星軌道の下までやってきます.

 地球規模の災害的事象が起こる確率は小さいです.これらに比べると小規模ですが,実際に起きそうな事象について対処する必要があります.

写真2 笠原氏

【笠原 稔氏:北海道の地震】
 地震というのは岩盤のズレ破壊によって起きます.このズレの量とズレの拡がりで地震の規模が決まります.これに対して,震源からの距離,地盤構成など,それぞれの場所の条件によって震度が決まります.また,地震による被害の大きさ,つまり震災度は社会構造がどの程度耐震化しているかで決まります.
 大きな地震が起きた後の余震分布の範囲が,ほぼズレの拡がり(面積)に対応しています.ここで注意しなければならないのは,マグニチュード(M)とズレの拡がりの関係です.M8の地震の場合,ズレの拡がりは100km×50km程でスレの量は5mです.これに対して,M7の場合は30km×15km,スレの量は1.5mです.地図に落としてみるとその違いが良く分かります.
 震度は震源からの距離によって変わってきますから,大規模なプレート間地震だけでなく,直下で起きる内陸型地震にも注意が必要です.マグニチュード7程度の内陸型地震で多くの犠牲者が出ています.
 海溝型地震はプレート運動で発生します.太平洋プレートは日本付近では約2億年の年代を持っていて地震が多発します.一方,日本海東縁でも地震が起きています.サハリン,積丹沖,北海道南西沖,日本海中部などの地震です.北海道北部地震帯と言って良い地震多発帯が道北の日本海側にあることが分かってきています.
 札幌周辺では1834年に石狩地震がありました.マグニチュード6.5以上で液状化跡が見つかっていて最大震度5強と推定されています.このような地震は2,000年間で4回起きていることが分かっています.ほぼ南北に分布する背斜軸が3本あり,その周辺で地震が起きていることも分かってきました.札幌は被害地震がないというのは間違いで,十分な注意が必要です.
 東海・東南海・南海地震については,スマトラ地震との対比で九州まで含んだ巨大なズレが発生する可能性が指摘されています.

 地震に備えるには十分な耐震性を持った建物を造ることが必要です.

写真3 西村氏

【西村裕一氏:北海道の津波】
 津波の研究をしているものとして,3.11の津波の規模はある程度想定していたが,時期については想定外でした.それで,まず事実に基づいて考えること,津波を地震の付属物としてではなく津波自体の研究を行うことをこれから進めようと考えています.
 北海道の津波はその発生原因から,1)火山の山体崩壊によるもの,2)チリなどの遠くで起きた波が伝わってくる遠地津波,3)日本海東縁で発生する津波,4)太平洋岸で発生する津波,の4つに分けられます.
 火山の山体崩壊による津波は日本では3例知られていて,そのうち2例が北海道です.1640年の北海道駒ヶ岳の山体崩壊による津波,1741年の渡島大島の崩壊による津波です.
 遠地津波としては1960年のチリ地震津波があります. 
 日本海東縁の地震による津波は,1940年の北海道西方沖地震津波があります.この津波は島根県,ロシア沿海州,北朝鮮,韓国でも記録されています.
 日本海溝で発生した地震による津波は,1611年の慶長地震津波が北海道で記録に残っている最も古いものです.
 千島海溝ではマグニチュード8くらいの地震が繰り返し起こっています.道東でM9程度の連動型地震津波が起こる可能性はあります.津波の発生間隔,どの範囲にどの程度の津波が来たかの解明などが必要です.
 津波堆積物の研究は,この間,様々な津波堆積物を調査することによった進歩してきました.また,津波堆積物がどのように経年変化するかも研究しています.

写真4 宇井氏

【宇井忠英氏:北海道の噴火】
 北海道の火山の噴火について写真を交えて紹介します.
 駒ヶ岳は1929年に噴火しました.わずか1日で収束しましたが大量の軽石を放出したほか火砕流も発生しました.このような噴火は1640年の山体崩壊を伴う噴火以来,4回発生していて今後も発生する可能性があります.
 有珠山は1977年から1978年にかけての噴火が記憶に新しいところです.有珠山は噴火により山の形が変わります.また,山頂で噴火したり,山麓で噴火したりと噴火の場所の特定がむずかしい火山です.
 樽前山は1909年に溶岩ドームの形成を伴う噴火がありました.この火山は,山麓に火砕流を流す大規模な噴火に始まり,数百年間活動した後,休止期に入るというサイクルを持っています.現在,休止期の前の時期にあり大規模な噴火の可能性は低いと考えられます.
 十勝岳は1926年の冬期に起こった噴火で泥流が発生しました.1962年には成層圏まで噴煙が達する噴火が起こっています.
 雌阿寒岳は400年前に山頂の赤沼火口を形成する噴火がありました.この火口の北西側が崩れたときのことが心配です.
 登別の地獄谷,大湯沼周辺は遊歩道がありますが,泥流や噴石が発生した記録があります.
 大雪山群の旭岳,川湯のアトサヌプリ,道南の恵山なども観光地となっていて,人が入り込んでいますが噴火の経歴があります.
 北海道では約3万年前に屈斜路カルデラ,約4万年前に支笏カルデラ,約11.2万年前に洞爺カルデラが大規模な噴火をしています.カルデラというのは大きな山があって,そこに大きな窪地ができるのではなく,ほとんど平坦なところで大規模な噴火があって大きな凹地(カルデラ=大釜)ができるのです.

 災害を防ぐには,住民を頂点に行政,メディア,研究者がそれを助けるという「減災テトラへドロン」の構築が大事です.

写真5 総合討論の様子
 左から笠原氏,西村氏,宇井氏,藤井氏

【総合討論】
 笠原氏,西村氏,宇井氏の3講演者に司会の藤井氏が質問するという形で始まりました.
 しかし,一巡したところで会場から発言があり,日本海東縁の地震と津波についてどのように考えているのかという質問が飛びました.司会の藤井氏に,もっとまじめな質問をして欲しいという趣旨のことも言いました.
 これに対しては,笠原氏が丁寧にかつ正確に説明し,西村氏も今後,日本海周辺を含めて調査していくという発言をしました.宇井氏は 2000年の有珠山噴火では事前予測がうまくいって一人の怪我人も出ませんでが,すべてがうまくいくとは限らないので様々な検討が必要であると発言しました.

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 以下,私の感想です.

 今の時期に,地震,津波,噴火について市民も対象とした講演として,各講演者の話は分かりやすく印象に残るものでした.しかし,藤井氏の意識が,市民の意識に対応していなかった点で参加者には不満があったと思います.
 北海道の場合,道東太平洋岸で500年周期の巨大津波が発生していることは事実として分かってきています.この地域での地震発生確率はかなり高く評価されています.3.11の時に仙台平野で起こった光景は,霧多布や釧路などの湿原で起こると思います.
 札幌の地下直下型地震のことがかなり詳しく分かってきていることを初めて知りました.3つの活褶曲軸の周辺で微小地震が発生していると言うことです.
 そして,日本海東縁変動帯での地震と津波の問題があります.3.11に重ね合わせると,どうしても泊原子力発電所がどうなるのかが北海道にとって大きな問題です.札幌は泊原発のほぼ真西,約60−70kmにあります.重大事故があれば間違いなく影響を受けます.

 今回の地震,津波災害では,国の信頼は大きく揺らいでしまいました.こういう時期に,科学者としてどういう発信をするのかを真剣に考えなければならないと思いました.

 もう一つ気になることがあります.12月13日の地すべり学会北海道支部の技術講習会もそうでしたが,今回の講演会も参加者が非常に少ないのです.
 今回の講演者は,それぞれのテーマに関して第一級の人たちです.朝日新聞の地方版には,この講演会の案内が前日の朝刊に載りました.せっかくの企画ですから,もう少し多くの人,特に市民を集める努力が必要と思います.