地質学会北海北海道支部例会(講演会)2021/07/13 07:02

 2021710日(土)午後1時半から午後5時まで、表記の講演会がオンラインで開かれました。六つの個人講演と一つの招待講演がありました。幾つかの講演を紹介します。

 

<個人講演>

 

山本正伸・櫻井弘道・関 宰、縄文時代以降の気候変化が北海道の狩猟漁撈採集文化に与えた影響

 

 北海道は本州の大部分が農耕中心の生活に入っても狩猟・採集を主とする続縄文文化が続きます。

 利尻島の南東の海岸近くにある南浜湿原と厚岸町の別寒辺牛(べかんべうし)湿原の泥炭の酸素18同位体の分析を行いました。

 紀元前3世紀頃(続縄文文化)、紀元4世紀(続縄文文化、オホーツク文化)、9世紀(擦文文化、オホーツク文化)、15世紀(アイヌ文化)の変遷は、夏の偏西風がどこを通っていたかに対応していることが分かりました。オホーツク文化が南下した時代は、偏西風が津軽海峡付近を通っていて対馬暖流が宗谷海峡まで達していませんでした。

 なお、山本氏らの講演要旨は「別寒牛湿原」となっています。

 

中本啓輔・宇野正起・亀田 純、スメクタイトの膨潤圧が断層のせん断強度に与える影響の検討

 

 2011年の東北地方太平洋沖地震のプレート境界断層の浅い部分のボーリングで、境界断層の試料を採取することに成功しました。その結果、境界断層の粘土には60-80%のスメクタイトが含まれていることが明らかになりました。

この研究では、スメクタイト含有量が膨潤挙動にどのような影響を与えるかを明らかにするため、スメクタイト含有量を変化させた試料を用いて膨潤圧試験を行いました。スメクタイト含有量が多くなるにつれて膨潤圧は大きくなります。

 

加地広美・竹下 徹、北海道東の前弧含石炭古第三系褶曲帯中の変形バンドの発達と歪集中

 

 道東の白糠町刺牛(さしうし)付近は、古第三紀・始新世の浦幌層群の舌辛(したから)層、尺別層が分布しています。この地域では、海岸付近でほぼ水平である尺別層が北北東-南南西の軸を持つ褶曲によって鉛直に曲げられています。

 この地域で地すべり調査のために実施されたボーリングコアの観察で、すべり面の下位の基盤岩中に変形バンドを発見しました。0.5mmほどの石炭層が引っ張られて破断したり堆積面に沿って剥離したりしています。その下位では変形バンドがいくつも形成されています。

 

千葉 崇・西村裕一・柳沢幸夫、北海道十勝沿岸域の完新世古環境復元における新第三系リワーク珪藻識別の重要性

 

 完新世の古環境復元に珪藻化石が用いられます。十勝の当縁(とうべり)川流域には新第三系の海成層が広く分布しています。これら基盤岩類の珪藻化石と当縁川河口にある湿地の完新世の珪藻化石を観察・分析して、異地性珪藻化石、誘導珪藻化石(いわゆるリワーク)の識別を行いました。その結果、17種が新第三系・大樹層に由来する誘導化石の可能性があり、さらに3種が異地性化石の可能性があると識別されました。

 ただし、これら誘導化石を除外しても当縁川河口の完新世古環境の復元は可能と考えられます。

 

<特別講演>

 

近藤玲介(東京大学 大気海洋研究所)、北海道におけるルミネッセンス年代測定法の適用事例の紹介-根釧台地周辺の特異な湿原群の地史研究を中心に-

 

 ルミネッセンス年代測定法は、石英や長石などの鉱物が最後に熱や光を受けた年代を決める方法です。熱ルミネッセンス法では噴火などによって加熱された時代、光ルミネッセンス法では堆積作用によって光を浴びなくなった時代を決めることができます。

 宗谷丘陵には、海成段丘を覆って寒冷期に形成されたインボリューション堆積物が分布しています。これらの年代を測定するとほぼ2,200年前という年代が出てきて、MIS2(酸素同位体ステージ2:寒冷期)に形成されたものと分かりました。豊富や猿払での測定でもMIS2という年代が得られました。

 利尻島の南南東に南浜湿原があります。すぐ東の沼浦湿原とともに水蒸気爆発によってできたマールです。利尻火山の山麓扇状地のレスの中の石英による年代、カキ礁の年代、鬼脇ポン山火砕丘の年代などは13,000年前〜11,000年前という年代が得られました。

 光ルミネッセンス年代測定法の一つに、pIRIR年代測定法というのがあります。この方法では堆積物中の長石を使って40万年前から20万年前までの年代測定ができます。

 サロマ湖の岐阜台地の年代は26万年前〜22万年前という年代が出てMIS7(温暖期)と推定されました。浜頓別町の頓別平野の最高位海成段丘(mT9面)は、31万年前〜34万年前でMIS9(温暖期)となりました。

 根室市の歯舞(はぼまい)湿原群、落石湿原群、浜中町の浜中湿原群、別海町の茨散(ばらさん)泥炭地といった台地上の湿原があります。 この泥炭層はマントルべッディングを形成していて、ブランケット型泥炭とも言われるものです。7.5万年前頃から泥炭が形成され始め、1.4万年前頃まで続いたと考えられます。

 歯舞湿原では海成段丘露頭に海成堆積物は発見されず、周氷河作用によって形成された角礫のみからなる堆積物が分布しています。この堆積物の上位のシルト層のpIRIR年代値は23千年前です。

 

<感 想>

 

 今回の発表で注目したのは、加地さん、竹下さんの変形バンドの話と特別講演の近藤さんの話でした。

 変形バンドが見られる地域は断層とされていましたが、大きく褶曲していることが明らかにされ、褶曲軸付近で変形バンドが検出されました。

 根室周辺の台地上の湿原というのも初めて知りました。海成段丘露頭の写真は、細粒分をほとんど含まない角礫層で、凍結破砕作用によって形成されたものというのは納得できました。

 光ルミネッセンス年代測定法は砂岩のような粗粒堆積物の形成年代を測定できるというのが強みです。試料採取時から光を遮断して行い分析も暗室で行うなど、それなりに大変ですが技術も進歩していて、もっと活用されてよい年代測定法だと思いました。