苅谷愛彦氏の講演2018/02/05 20:16

表記講演会が,2018年2月2日(金)15時~17時まで,北海道総合プラザで開かれました.

この講演会は,北海道地すべり学会北海道支部の研究委員会が開いたものです.この研究委員会は,

「地すべりに関わるテーマ調査・研究について情報交換や話題提供を行う.年2~3階開催.」しています( http://www.hols-net.com/index.html>組織図 ).

興味のある方は誰でも参加できます. 


今回の話題提供は,刈谷氏と田近氏でした.取りあえず,刈谷氏の講演を紹介します.


苅谷愛彦氏

写真 講演する刈谷氏


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苅谷愛彦(かりや・よしひこ)氏(専修大学教授):

最近明らかにされた日本アルプス高山地帯の大規模崩壊と岩盤重力変形


刈谷氏は当初,気候地形学の研究をしていましたが,氷河堆積物とされているものが地すべり堆積物ではないかと疑問を持ち研究を始めました.


<白馬岳(しろうま・だけ)東斜面の堆積物>

JR大糸線の白馬(はくば)駅の北で姫川に西から合流する松川の支流・北股入の谷頭部には,大雪渓があります.モレーンとされている堆積物があり,5期の氷期があるとされていました.

しかし,堆積物の礫種を見ると限られた岩種からなっていて,北股入流域に分布する様々な岩の礫が含まれていません.また,含まれている礫には高速で衝突した証拠であるジグソークラックが見られます.

これらのことから,北股入の堆積物はモレーンとその後の地すべり(岩屑なだれあるいは岩石なだれ)堆積物が重なっていると考えました.


<高天原>

高天原は黒部ダムの上流にある岩苔小谷の右岸にある緩斜面です.ここでも流域に分布する岩種は4種類ありますが,モレーンとされている堆積物は1種のみの礫からなりジグソークラックが見られます.その堆積物の下に半固結礫層があり,材が含まれていて約1万年前のものです.

宇宙線照射年代測定(石英の10Be)の結果は,かなりバラツキが大きくなっています.

この堆積物は単一の生成ではなく,モレーンの上に地すべり(岩石なだれ)堆積物が載っています.


<蝶ヶ岳東斜面>

蝶ヶ岳(標高2677m)は,安曇野市の西の山地にあります.蝶ヶ岳周辺の地質は美濃帯の沢渡(さわんど)コンプレックスで,砂岩泥岩互層とブロック状のチャート・礫岩で構成されています.

蝶ヶ岳ヒュッテに向かって延びている蝶沢では,標高2000m付近までは斜面崩壊堆積物が分布していて,その上方にはクリープした岩盤が分布しています.宇宙線照射年代測定では,6千年前という値が出ています.


<朝日岳周辺>

白馬岳から北東に延びる尾根と北北西に延びる尾根があります.後者の途中に朝日岳(標高2418m)があります.姫川支流の大所川のさらに支流の白高地沢の源頭部付近の長栂山(ながつげ・やま:2267m)南東斜面や赤男山(あかおとこ・やま:2190m)南西斜面などに地すべり地形が見られます.

これらの地すべりは,氷河が前進したときに押し出されたプッシュ・モレーンとされてきました.堆積物に挟まれている泥炭層の年代は約6千年前です.


<鳳凰山 ドンドコ沢>

JR中央本線韮崎駅の西,約14kmにある標高2764mの地蔵ヶ岳を源流とするドンドコ沢左岸には,淘汰の悪い花崗岩礫のみからなる角礫層が沢沿いに3.6km以上分布しています.上端は標高1900m付近,末端は標高1100m付近で小武川との合流点付近に達しています.堆積物の礫にはジグソークラックが認められます.

この岩石なだれが発生した年代は,マグニチュード8.0~8.5とされている西暦887年の仁和の五畿七道地震の可能性があります.この時,八ヶ岳で岩屑なだれが発生し堰止め湖が形成されています.

材化石のセルロースの酸素14による年代測定が,西暦887年を示します.


<その他>

梓川右岸に拡がる田代池のこと,焼岳の岩石氷河とされているものなどについても述べました.



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