月の燐灰石中の水の由来 ― 2011/01/13 17:28

月の岩石の火山ガラスと燐灰石のなかに水が含まれていることは,これまで確認されていました.今回の発表では,地球ー月システムへの水は月形成衝突後の短時間に彗星によってもたらされたと結論づけています(nature geoscience : pubulished online:9 Jan. 2011,1-4).
月の海の玄武岩と高地の斜長岩,それに角礫岩中の燐灰石(apatite)中に含まれる水の含有量と水素同位体を分析したところ,水は最大0.6重量%含まれていました.標準平均海水の重水素/水素に対する月の燐灰石中の水の重水素/水素の比(δD)は,-372‰から+1010パーミルという値でした.
地球の水のδDは,-500%から+100‰の範囲にあり,地球の初成水は-50‰付近の値を取ります.一方,太陽系では,水素に富んだ太陽から重水素に富んだ金星大気まで-1,000‰から+10,000‰以上までの幅広い値を示しています.彗星のδDは約+1,000‰と比較的高い値を取ります.火星の含水鉱物中の水酸基のδDは数百‰から6,500‰とやはり高い値を示しますが,土星や木星などの外惑星は-800‰から-1,000‰と低い値となります.
今回分析した月の海の玄武岩のδDは+391‰から+1,010‰の範囲にあり,地球上にあるどんな水よりも大きな値となっていて月固有の水である可能性が高いと言えます.月の高地に産出するアリカリ斜長岩の砕屑物は0.008重量%(80ppm)の水を含んでいて,δDは+240‰から+340‰の範囲にあります.
ところで,原始惑星は何回かの原始惑星同士の衝突(巨大衝突:ジャイアントインパクト)によって成長,大型化していったと考えられています.その最後の巨大衝突によって地球から月が形成されたと考えられています.地球規模の惑星の衝突で発生する温度は6万Kくらいとされていて,岩石や鉄が溶ける温度,1,500Kから2,000Kに比べて桁違いに大きな値です.この熱により地球ではマントルと核の分離が起こりました.そして,月では44億年前から39億年前に初成的斜長岩が形成され,38.5億年前から10億年前に海の玄武岩が形成されました.海の玄武岩の活動の直前に高地アルカリ斜長岩が形成されたとされています.
月の水のδDは地球に比べて大きな値を取りますが,その原因としては,1)月が巨大衝突で形成された直後には地球マントルと同じであったδDが,分別蒸留によって高地の岩石が持っているδDになった,2)彗星の水などが早い時期に月に付加された,3)月表面のレゴリス(月などの天体の表面を覆う破砕した未固結の岩石物質の層)からもたらされた,の三つが考えられます.
月の水の起源についての結論として,地球への巨大惑星の衝突によって月が形成され,その後,高地の岩石が形成されるまでの間に彗星によって月に水がもたらされたというシナリオを描いています.このことは,当然この時代の地球にも当てはまることで,今後,月のサンプルについての研究は,地球ー月システムへの彗星による水の供給ということに絞られるとしています.
水そして有機物の由来は,直接我々生命体の発生に関わる問題です.月の研究を通して初期地球の姿がより鮮明になることが期待されます.
注)δD={[(D/H)sample/(D/H)VSMOW]-1}×1,000
VSMOW:ヴィエンナ標準平均海水(Vienna Standard Mean Ocean Water)