市民フォーラム リスク評価の裏側2025/12/04 14:12

 20251126日(水)午後1時半から同4時まで、『高木基金PFASプロジェクト市民フォーラム リスク評価の裏側−PFAS “論文差し替え” で見えた「いのちを守る仕組み」を考える』が、衆議院第二議員会館で開かれました。Zoomで視聴しました。

 この講演会の趣旨は以下のとおりです。

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PFAS市民フォーラム

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 高橋雅恵さんの報告と原田浩二さんの講演のあと、中上祐子さんの司会でパネルディスカッションが行われました。

 

高橋雅恵さん(高木基金PFASプロジェクト事務局長):

PFAS評価書』大量論文差しかえ問題で明らかになったこと

 

 内閣府の食品安全委員会(食安委)では、20232月から20246月までPFASのリスク評価を行いました。水道水については50ng/Lという基準値が設定されました。

 この基準を決めるために、いろいろな文献を収集しました。最初、275論文が採用され、その後201論文に減らされ、最終的に268論文が採用されました。

 

 この決定過程の資料の開示請求を20254月に行いました。1,300頁の文書が開示されました。その結果、公開会合と非公開会合(打合せ会)とがあり、非公開会合で実質的な評価が行われたことが明らかになりました。

 例えば、すい臓がんとPFASの関連については、最初関連が認められていましたが、二転三転して判断は困難とされました。非公開会合で発がん性の判断を変えています。外国の論文ではPFOAは発がん性と関連があるとされています。

 PFASによる出生体重の低下については、公開資料は黒塗りで影響は不明となっています。

 

 重要なことは、国際的なリスク評価機関では文献検索方法、選定基準、各研究の質評価を報告書に詳細に記すことが標準となっていることです。

 さらに、食品安全委員会の運営規定には、非公開会議の議事録を公開すると明記されています。

 

原田浩二さん(京都府立大学):世界標準のシスク評価とは−WHOの科学物質リスクアセスメントを事例に−

 

 今回紹介するのは、世界保健機関(WHO)の化学リスク評価ネットワークが作成した化学物質リスク評価における体系的レビューの利用枠組み」です。

 

 体系的レビューというのは、もともと臨床医学や社会科学で用いられていました。それが環境科学や健康科学に適用されるようになりました。透明性を最大化するのが趣旨です。

 専門家の意見、単群研究、非ランダム化比較研究などをシステマティックにレビューします。この際、体系的なレビューに基づくことが望ましいです。利用可能なエビデンスを統合し、透明性の最大化を図ります。エビデンスの矛楯を解消し、透明性を向上させて文書化します。バイアスを低減させるため事前に決められた方法に従います。

 

 計画段階では、プロトコル(手順)を決めます。

検索では、すべての論文を集めます。

選択では、基準に基づいてスクリーニング(篩い分け)します。

評価では、批判的に評価を行います。特にバイアスリスクに注意します。

抽出では、データを体系的に抽出します。

統合では、エイデンスを統合し確実性を評価します。

報告では、詳しく透明性のある内容とします。

 

 研究課題を構造化(PECO)します。

 一般的、労働者、動物、臨床など何を対象としているのかを決めます(P)。

 どんな種類の物質にどの程度暴露させるのかを決めます(E)。

 非暴露対象など比較対象を決めます(C)。

 最後に健康影響などのアウトカムを記述します(O)。

 

 プロトコルの開発では公開性、透明性、重複回避、外部レビューの確保が求められます。

 文献スクリーニングでは、タイトル・抄録でのスクリーニングで明らかに無関係な文献を除外します。全文スクリーニングでは詳しい包含・除外基準によって判定が行われます。この段階では、研究の質や結果は考慮しません。独立した人が二重に評価して見落としやバイアスを防ぎます。

 学術誌に掲載されていないグレー文献は、出版元による偏りを是正する上で重要です。

 このようにして収集された文献からデータを抽出します。箇別研究の評価、批判的評価を行います。構造化され標準化されたアプローチを行います。これによってバイアスを除去します。

 次に妥当性の検討を行います。これには内部妥当性と外部妥当性があります。内部妥当性は、研究結果の「真実性」とバイアス最小化で評価します。外部妥当性は、研究結果がレビューにどの程度「適用可能か」で評価します。

 バイアスリスク評価(RoB)を行います。バイアス評価では、文献の選択時のバイアス、測定精度のバイアス、本当は関連の無い要因の間に見かけ上の「相関関係」が生じる交絡が生じていないか、報告の段階で選択が行われていないか(報告バイアス)をチェックします。

 エビデンスの評価を行います。レビュープロトコルで事前に定義されていること、公平性を最大化するように構造化されていること、科学的に正当化が可能であること、文書化され報告されていることが重要です。評価の手段としては、ヒートマップが用いられ、それぞれの文献の評価結果を視覚的に一覧しやすいようにします。

 個々の文献についてエビデンスの要約を行い、信頼性の評価を行うことでエビデンスを生成します。これらを記述的に統合する(定性的統合)か、メタ分析により定量的に統合します。

 確実性の評価では、エビデンスの強さの格付けを行います。そこでは、バイアスリスクがないか、データなどの不精確さがないか、論理が一貫しているか、試験などに直接関わっているか、そして出版バイアスがないか、などが検討されます。

 統合によって異なる証拠源が結合されます。人の疫学調査と動物実験の結果の統合などです。

 そして、リスク評価者が持つ不確実性も評価します。

 

 体系的レビューでは、透明性、信頼性と再現性の担保、バイアスと誤りの最小化、信頼性と公平性、ステークホルダーからの信頼が重要です。

 そして、知識のギャップやデータの限界(不確実性)を隠さずに記述(透明な開示)することが、リスク管理者が適切な意思決定を行うために不可欠です。

 

 質疑応答の中で原田氏は、次のように述べました。

 最初に文献の質を見るのは間違いで、まず集めることが重要です。集めた後で内容を吟味して取捨選択することです。その際、選定プロトコルで選択方法を明示することです。

 

<パネルディスカッション>

 モデレータは弁護士の中下祐子さん、パネリストは高橋さんと原田さんのほかに鯉淵典之さん(群馬大学・特別教授)と菅野 純(かんの・じゅん)さん(国立医薬品食品衛生研究所・客員研究員)でした。

 

鯉淵さんの発言:

 培養細胞での実験を行っていて疫学とは無縁でした。しかし、2020年の末に食品安全委員会から文献を読んでくれという依頼が来ました。分量が多くて正月も休まず文献を読みましたが、信頼が置けるのかどうかを判断するのが精一杯でした。普通は、数ヶ月かけて56論文を読んでレポートします。食安委では私が読んだ論文は全部リストから外されました。その後復活しましたが、いずれもその理由は分かりませんでした。

 毒性研究では1回の服薬(ワンドウズ)の結果でも大事です。

 

菅野さんの発言:

 国際がん研究機関(IARC)では発がん性について、人に対して発がん性があるグループ1、動物に対して発がん性があるグループ2、その他のグループ3に分けています。毒性症状が出るかどうかが基準です。

 どういう症状を調べるかは最初に決めます。同じ場所でグループに分けて調べ、違う場所で症状が出るかを調べます。症例報告が大事で、データが蓄積されることで意味を持ってきます。

 フタル酸エステルの毒性研究では同じ実験を3回行っています。GLP試験(優良試験所基準試験)はOECDで共通化されていて、テスト・ガイドラインが出ています。ラットに2年間飲ませて実験し、67年かけてガイドラインを作成しました。世界中の科学者が集まって議論し、受託実験施設でできる実験を決めます。次世代への影響や神経への影響を検討します。記録を取り、きちんと残して報告できる体制を整えています。

 食安委はとりあえず基準値としての数字を出したいという意図が先行しています。

 

 そのほか、いろいろな意見が出ました。台湾は日本と同じ基準値を採用するなど、日本はアジアの標準となっていて、国際的にも責任があるとの発言がありました。

 また、日本の食品安全基準の審査は国際基準を満たす内容とする必要があるという意見がありました。

 裁判に訴えようにも、まだ被害が出ていないので門前払いとなるそうです。

 

<感 想>

 水道水のPFAS水質基準は来年(2026年)41日から適用されます。基準値はPFOAPFOSの合算で50ng/L以下です。現在、PFASを現場で測定する方法は確立されていません。原則3ヶ月に1回採水して、液体クロマトグラフ質量分析などにより室内で分析することになります。

 アメリカの規制値はPFOSPFOAそれぞれ4ng/Lで、カナダは25種類の PFAS合計で30ng/LEU加盟国は20種類のPFAS合計で100ng/Lとなっています。

 

 健康被害としては、次のような指摘があります。

 「動脈硬化にもつながる血液中のコレステロール値の高さや、腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)、妊娠高血圧症との間に関連性が高いという結論が発表されました。」(日本財団ジャーナル、2024108日)。

 また、低体重出産の危険や子どもの免疫力への影響が指摘されています。

 

 PFASによる健康障害は、第二の水俣病になる可能性があると言われています。分解しにくいため「永遠の化学物質」と言われているPFASは、石綿による肺の中皮腫などの健康被害と酷似しています。フッ素を含む有機物であることから、有機水銀による健康被害をもたらした水俣病に似た面もあると思います。

 

 PFASの水質基準を検討している食品安全委員会が内閣府の所管だということも引っかかります。というのは、水道水の水質基準は環境省が決めているからです。

 本当に国民の健康が守れるのか、非常に不安を感じます。


本の紹介:絣の着物2025/12/29 17:00

 壺井 栄著、秦 剛編集・解説、絣の着物 壺井栄戦争末期短編集。琥珀書房、20256月。

 

絣の着物 表紙

表紙

 

絣の着物裏表紙

裏表紙

 

 映画にもなった「二十四の瞳」の作者である壺井 栄が、アジア太平洋戦争末期の庶民の日常生活を綴った短編小説です。「絣の着物」と12の短編のほかに「初夏を待つ」と1945815日までの「茶の間日記」が収められています。

 

 どの短編も、しみじみと心に残る余韻をもたらします。

 私は戦前の生活の記憶はありませんが、描かれている風景や登場する人物は子どもの頃の会ったことがあるような人びとです。懐かしさを感じます。

 

 この本の実物は、戦後80年を経た今年、北京で見つかったといいます。国内で発行できず北京で出版されたものが、北京大学図書館外国語学院分館に二冊残っていたのだそうです。1945610日に印刷・発行されたものです。

 

 戦争をしている国の市井の人びとの生活がどんなものなのか、若い人たちに読んでほしいと思います。