海底熱水鉱床を科学する ― 2019/03/23 08:51
2019年3月7日(木)に海洋研究開発機構の表記成果報告会がありました.会場は,海洋研究開発機構の東京事務所で,東京メトロ千代田線の霞ヶ関駅近くにある富国生命ビルの23階でした.向かいは日比谷公園です.
この報告会は写真撮影,録音とも禁止でした.
開会の挨拶は,平 朝彦・海洋開発研究機構理事長でした.
木川栄一・海底資源研究開発センター長が概要説明を行いました.
海洋研究開発機構では2011年から海底資源研究プロジェクトを立ち上げました.一般向けの報告会は2011年から行い,メタンハイドレート,コバルトリッチクラストなど,レアアース泥などの成果を発表してきました.
今回の報告会では,沖縄トラフでの「ちきゅう」による掘削結果や探査技術を中心に報告します.
講演は,以下の四つでした.
高谷雄太郎氏(招聘研究員):掘削コアの記載・化学分析から読み解く海底下鉱化作用
北田数也氏(技術主任):孔内物理検層から読み解く海底下鉱体
笠屋貴史氏(主任技術研究員):電気の目で見る海底熱水鉱床~機器開発から民間展開まで~
野崎達生氏(研究員╱資源成因研究グループリーダー代理):海底下鉱化作用を海底面上から覗く人工熱水孔
総合討論は,司会が熊谷秀憲氏(主任技術研究員╱資源成因研究グループリーダー)で,パネリストは講演した四氏のほかに,浦辺徹郎氏(東京大学名誉教授),石橋純一郎氏(九州大学准教授)でした.
今回の報告会は,沖縄トラフの伊是名海穴(いぜな・かいけつ)と伊平屋小海嶺(いへや・しょうかいれい)で行われた「ちきゅう」による調査結果の報告です.掘削されたコアの解析結果,物理検層結果,電磁気的探査結果を紹介しています.また,海底熱水孔の噴出物を捕捉して人工的に養殖する技術(黒鉱養殖装置)を紹介しています.
図1 沖縄本島と伊平屋小海嶺
(JOGMEC ニュースリリース,2014年12月4日 から)
図2 伊平屋小海嶺と伊是名海穴
(井沢ほか,1991,沖縄トラフ伊平屋海嶺の熱水性炭酸塩チムニー.海洋科学技術センター試験研究報告,186p)
図3 海底熱水鉱床の模式図
(JOGMEC ニュースリリース,2016年5月26日 から)
熱水噴出孔の周りに出来たマウンド鉱体と泥質堆積物の下にある下部鉱体とが確認されています.両者の関係は,はっきりしません.
伊是名海穴にはマウントがあり熱水が噴出してますが,その周辺に海底下鉱体があります.この鉱体付近では,上から水中土石流堆積物,半遠洋性堆積物,半遠洋性堆積物を挟在する海底下鉱体,磁流鉄鉱脈を含む緑色変質岩,変質粘土╱珪化岩という層序になっていて,鉱体の最上部とその上の半遠洋性堆積物の間には3cm ほどの境界層があります.この境界層には硫化物と重晶石が含まれています.
この海底下鉱体がどのようにして出来たかですが,講演者の高谷氏は交代作用によるものと考えています.透水性の良い軽石に富む層と遮水層となっている半遠洋性堆積物が互層しているので,軽石層に浸透してきた熱水が交代作用で鉱体を形成したと考えています.
海底下鉱体のボーリングではコアの採取率がよくありません.地温が300℃以上あり,ボーリングはジャーミングを起こしやすい状態にあります.孔内物理検層が有効です.硫化物で構成される海底下鉱体ではガンマ線強度がはっきりと低い値を示し,鉱体に含まれている半遠洋性堆積物はガンマ線強度のピークとして現れます.掘削を終わった後に,ドリルごと引き上げながら検層を行います.
曳航式電気探査で自然電位を測定すると,海底下鉱体の部分で負の電位異常を示します.短時間で広い範囲の探査をすることが可能になります.
調査で実施したボーリング孔から熱水が噴出しているため,ボーリング孔の周りにチムニーが形成されます.海底のボーリング孔に「黒鉱養殖装置」を付けると「鉱床のミニチュア」が形成されます.この装置では,海水と混ざっていない熱水からどのようにして硫化物が形成されるのかを見る現場実験を行うことができます.
<感 想>
北鹿地方で大規模に採掘された黒鉱は海底噴気鉱床で,恐らくここで取り上げられている海底熱水鉱床と同じような形成機構を持っていたと考えられます.ただし,黒鉱鉱床の場合,鉱体の下盤に流紋岩のドームがあるのが特徴です.沖縄トラフで見つかっている海底下鉱体の下部に酸性岩があるのかどうか知りたいものです.現在知られている限りでは,鉱体周辺にあるのは安山岩や玄武岩が主体のようです.
図4 黒鉱鉱床の模式断面図
(山口大学工学部学術資料展示館より)
第7回防災学術連携シンポジウム ― 2019/03/23 14:24
2019年3月12日(火),日本学術会議講堂で開かれたシンポジウムを聞きに行きました.
シンポジウムのタイトルは「平成30年夏に複合的に連続発生した自然災害と学術調査報告」です.日本学術会議の防災学術連携体の主催で,この連携体には土木学会などの理工系学会のほか,日本災害医学会や日本公衆衛生看護学会など医療・看護系の学会も参加しています.
朝10時から夕方17時30分までの長丁場でしたが,今まで気がつかなかった災害時のいろいろな活動を聞くことができました.
シンポジウムの案内ビラ(裏面)
各セクションの司会者および講演者とそのタイトルです.

学術会議の建物
東京メトロ千代田線の乃木坂駅を降りてすぐの所にあります.
幾つかの講演を紹介します.
中村 尚氏(気象学会):連鎖する気象災害のメカニズム-2018年夏の事例-
2018年は6月29日に梅雨が開けました.その後,7月5日から7日にかけて西日本豪雨,7月上旬に北海道で豪雨,7月23日に熊谷で41.1℃の国内史上最高気温を記録,9月には台風21号と24号が襲来しました.
大気中の水蒸気量が増加していることが豪雨の原因です.これは南方での海水温上昇などによるものです.
猛暑は,西風ジェット気流が北に偏ったこと,中緯度の海水温が上昇したことが原因です.
今後は複合災害に注意が必要です.
竹見哲也氏(気象学会):平成30年台風21号の気象学的特徴と暴風の実態
台風21号では瞬間最大風速が50m超の竜巻級の風速を記録しました.これによって,電柱やブロック塀の倒壊が発生しました.また,車が風で飛ばされたり船が漂流したりクレーンが倒れたりなど普段,想像できないことが起こります.
岡田成幸氏(地震工学会):北海道胆振東部地震に見る積雪寒冷地住宅の強靱さと問題
積雪寒冷地の住宅は,地震による震動被害が少ない傾向にあります.その理由は,基礎が布基礎であること,壁がパネルであることです.
今回の胆振東部地震では,1階が店舗の家が倒壊しました.集落の立地場所の選定も問題だと思います.住宅が倒壊して閉じ込められた場合,救出する人手の確保が難しいという問題もあります.
耐震と断熱を併用した住宅建設が効果的です.
木根原良樹(安全工学会):自然災害と産業安全における学術的課題
2018年は,3月に岡山でアルミニウム工場で浸水爆発事故,9月には神戸で高潮浸水によるマグネシウム火災事故,室蘭で地震による停電で製鉄所の製鋼工場で火災,福井の繊維工場で台風による停電の後で機械の試運転中に火災などの産業事故がありました.
1964年の新潟地震,1978年の宮城県沖地震,1983年の日本海中部地震,1995年の兵庫県南部地震,2003年の十勝沖地震,2011年の東北地方太平洋沖地震,2016年の熊本地震などを経験して,危険物施設の規定は改定されてきました.
対応策を施してもなお残る残存リスクに注意が必要です.
<感 想>
これだけ多くの学会の調査報告を一度に聞くことができる機会は少ないと思います.紹介しませんでしたが,災害医療の対応など色々と考えさせられたシンポジウムでした.