土木計画学ワンディセミナー ― 2019/03/18 18:17
2019年3月4日(月),札幌駅北口の TKP 札幌駅カンファレンスセンターで表記セミナーが開かれました.土木学会の主催で,土木計画学研究委員会が担当したセミナーです.
土木計画学ワンディセミナー No.99 「国土・県土整備の技術と実践」-人口減少・交流時代に真に必要なインフラ整備を考える-

写真1 講演する藤井 聡氏
乗ってくると独特の口調になります.理論武装をしながら,色々と戦ってきたようです.
藤井 聡氏(京都大学):インフラ政策の総論
国などが行うインフラ政策には,大きく二つの効果があります.ストック効果とフロー効果です.
政府が公共投資を行ってインフラを整備すると企業の生産性向上・投資拡大を引き出し,家計の消費拡大を生み出します.このように,整備されたインフラが生み出すのがストック効果です.インフラを整備することによって社会でお金が廻るのがフロー効果です.投資したことで企業活動が活発になり,個人消費が伸びることで税収も上がるという財政効果もあります.
日本のインフラ整備は,国際的に見て遅れています.
例えば,高速道路網を比べてみると,アメリカやドイツはもちろんイギリスに比べてもネットワークとしての道路網は貧弱です.
国民一人あたりの鉄道総延長と GDP 成長率は明らかに正の相関を示しています.インフラ整備をすることでGDPも増加します.
北海道の場合,青函トンネルが物流のネックになっています.第二青函トンネルは8千億円で建設可能です.鉄道・道路のネットワークを整備することです.
インフラ整備に10兆円を投資すると GDP の増加や税収増で30兆円の利益が出てきます.逆の現象も起きます.実際に,1999年から2003年の間に,インフラ整備投資が7兆円減少した結果,7兆円の税収減が起きています.
*今回の講義内容は,「藤井 聡,改訂版 土木計画学.2018年8月,学術出版社」の237ページ以降に述べられています.

写真2 講演する小池淳司氏
土木系の先生とは思えない風貌です.故宇沢氏の名前が出てきたのには,ちょっとビックリしました.
小池淳司氏(神戸大学):権利と効率のストック効果-予測と予定の計画論-
政策を立案するには創造的思考(PLAN)と本能的思考(EBPM:Evidence Based Policy Making 証拠に基づく政策立案)の循環が必要です.創造的思考を元に数値目標を定め政策立案を行います.この場合,長期的目標は何かを考える必要があります.それは,「日本の自然を子に託せる」と言うことです.
インフラとは,生活に不可欠な存在で,一人だけでは整備が不可能なものです.経済学者の宇沢弘文先生は,インフラの供給水準の基本原理は,社会的通念により規定されたもので,効率性よりも社会的安定性,公平,平等が重要と述べています.費用便益比(B/C) だけでは決められません.前提としてその事業に対するシンパシー(共感)が必要です.
ストック効果を考える場合,効率のストック効果と権利のストック効果を分けて考える必要があります.効率のストック効果では,採算性の予測を行い,その上でこうするという予定を決定します.権利のストック効果では,地域の存続,文化・伝統,安全・安心についての予測を行い,地域創生や国土計画でこうすると決定します.公共性を涵養するには,このようなストック効果を提示することが不可欠です.
その上で,常識ある政策意思決定に戻ることが必要です.
佐々木邦明氏(早稲田大学):エビデンスに基づく政策形成支援の基礎と応用
土木計画とは,土木施設を整備・運用して,よりよい社会へと改善するための方法・手順を考えることです.
エビデンスというのは因果関係についての実証的根拠のことです.エビデンスには現状を的確に捉える計測と政策の効果の因果関係を推定する分析とがあります.
因果関係を特定するための手法として,ランダム化比較実験があります.しかし,因果関係を関連づけることは,なかなか難しいです.政策の実施前と実施後の比較は実施群のみの比較なのでエビデンスになりにくいのです.
パネル分析,操作変数法,マッチング法,模擬実験などの手法もあります.
石井吉春氏(北海道大学):地域政策から見た北海道のインフラ整備
北海道の開発は産業と共に発展してきて今は衰退しています.
日本全体では一極集中が進行し,大都市部ほど出生率が低くなっています.そのため人口減少が起こっていますが,経済効率は良くなっています.日本の国際競争力をつけるには新幹線網など国土の主軸を形成する必要があります.
日本の国土計画は新全総(1965年策定の第二次全国総合開発計画)までは「まとも」でしたが,その後は物語となっています.
高速道路にしても新幹線にしてもネットワーク化が必要です.
<感 想>
今回のセミナーは,土木計画のほんの一部分を扱ったものであることは,藤井氏の「土木計画学」を見ると良く分かります.
土木計画学が,土木施設を整備・運用して,よりよい社会へと改善するための方法・手順を考えることであるということが常識となり,その長期目標が日本の自然を守り,より良い社会へと不断に改良していくこととなれば,日本は住みやすい社会になっていくだろうと思います.