本の紹介:プレート・テクトニクス革命 ― 2025/10/12 14:34

木村 学編、プレート・テクトニクス革命。岩浪文庫、2025年8月。
プレートテクトニクスの成立・発展過程を4幕劇として述べています。 総説と各章で扱われている原著論文は次のとおりです。
総説:プレート・テクトニクスの古典論文を読む
第1章:H.H.ヘス;海盆の歴史、
R.S.ディーツ;海洋底拡大による海盆の進化
第2章:F.J.ヴァイン・D.H.マシューズ;海嶺上の磁気異常
第3章:J.T.ウィルソン;断層の新しい分類とその大陸移動との関係
第4章:J.T.ウィルソン;ハワイ列島の起源について
第5章:D.P.マッケンジー・R.L.パーカー;北太平洋:球殻テクトニク スの例、
W.J.モルガン;ライズ、海溝、大断層、地殻ブロック
第6章:D.P.マッケンジー;三重会合点の進化
第7章:J.F.デューイ・J.M.バード;山脈地帯と新グローバル・テクト ニクス
とりあえず、総説と各章の最初にある論文解説を読むだけでもプレート・テクトニクスの発展過程が分かります。
日本では沈み込み帯のテクトニクスが重要ですが、プレート・テクトニクスにとってはトランスフォーム断層を提唱したウィルソンの論文(第3章)が重要な気がします。
原著論文の翻訳は、ゆっくり読むことにします。
今年のランニング大会が終わった ― 2025/10/07 14:12

2025年8月11日の白旗山トレイルランのゴール手前
私の2025年のランニング大会は、10月5日の札幌マラソン10kmで終わりました。
今年もテイネトレイルのミドル(約16lm)、白旗山トレイル(約9km)、石狩サーモンマラソン10km、そして札幌マラソン10kmに出ました。
一番緊張したのは、石狩サーモンマラソンの10kmでした。7.5kmの関門を無事通過できるかが心配でした。
札幌マラソン10kmの最終完走者は、2時間30分ほどでしたから、まだ私には余裕があります。
一時は5kmを走るのも辛かったのですが、プロテインを採るようになってから体力が好転しました。年寄りは、どうしてもタンパク質が不足するようです。
それと、今年はトレイルラン用の靴もロードレース用の靴も新しくしました。トレイルラン用はサロモンにしましたが、ロードレース用は初めてミズノにしました。履き心地が良く前よりも速く走れるような気がします。少なくとも、記録は落ちていません。
本の紹介:大陸はどの用の動くのか ― 2025/10/07 13:33

吉田昌樹、大陸はどのように動くのか 過去と将来の大陸移動、2023年2月、技術評論社
あとがきで著者は次のように述べています。
「本書は、これから地球科学を学びたい読者、特に中高生をターゲットにして執筆しました。」
この意図は成功しています。最新のシミュレーションを扱いながら、文章で理解できるように書かれています。もちろん、豊富なカラーの図も理解を助けてくれます。
地球全体の様子をシミュレーションする基本概念はレオロジーです。 地球内部の運動を理解する上での重要な情報は、物体の粘り気の程度を表す粘性率です。
このような、基本的概念の説明から始まって、将来の地球の予測までが分かりやすく述べられています。
若い人は、このサイズの文字でも苦労しないでしょうが、私は字が小さくて読みづらく、Kindle版も購入しました。必要な箇所を繰り返し読むことになると思います。
名著という評価を与えるには、もう少し時間が必要でしょうが、良書であることは間違いありません。
高木仁三郎市民科学基金 2024年度国内枠助成 成果発表会 ― 2025/10/04 11:19
2025年9月27日、午前10時から午後4時まで表記発表会が開かれました。Zoomで視聴しました。
高木仁三郎市民科学基金(高木基金)は、2000年10月に亡くなった高木仁三郎氏の <次の時代の「市民科学者」をめざす個人やグループに資金面での奨励・育成を行ってほしい> との遺言にもとづいて創設されました。
原田浩二さん「市⺠によるPFAS調査のための化学分析基盤の構築(第2期) 」から始まって、藤⽥ 康元さん「実践・市⺠放射能測定室の作り⽅〜市⺠が培った確かな測定技術の継承を⽬指して〜 」まで、12件の発表がありました。
<原⽥ 浩⼆さん:市⺠によるPFAS調査のための化学分析基盤の構築(第2期) >
PFASの検査に行政が応えないため2024年度調査では土壌、水質、血液について検査を行いました。
京都府・綾部市では若狭湾に注ぐ由良川支流の犀川で指針値越えのPFASが検出されました。上流に廃棄物処分場があります。
京都府・福知山市では芦渕浄水場で目標値を超えるPFASが検出されました。上流に最終処分場があります。
岐阜県の各務原市では血液検査を行いました。水源に近い住民、特に小児が要注意です。
岡山県の吉備中央町では使用済み活性炭から高濃度のPFOAおよびハイドロPFASが検出されました。
三重県の四日市市ではキオクシアの半導体工場や最終処分場の排水からPFASが検出されました。
相模原市の南橋本には3Mジャパンの工場の敷地内にある観測井戸からPFASが検出されました。キャンプ座間の泡消化剤由来と思われるPFAS類が検出されています。
熊本市の井芹川では表層土の調査が必要です。
PFASを低コストで分析できる簡易分析法の開発を行っています。調査の対象としては、工場、自衛隊や米軍の基地、最終処分場です。
<青木一政さん:リネン吸着法(LAM)の吸着メカニズムの解析と絶対値評価>
大気中のセシウムをリネン(亜麻布)に吸着させて、セシウム量の測定を行っています。リネン吸着法(LAM)と呼んでいます。
宮城県大崎市の玉造クリーンセンターで放射能に汚染された廃棄物を一斉に焼却したときに大気中にセシウム粉塵が漏れたことをこの方法で立証しました。
大気中のセシウム粉塵濃度測定の標準方法であるハイボリューム・エアダストサンプラー(ハイボル)との比較を行って、LAMでの測定値をハイボル測定値に変換する目処が立ちました。
<川端眞由美さん:⽊質バイオマス発電による放射能汚染の拡散調査>
木質バイオマス発電は、「木を燃やす火力発電」です。
軽井沢の西にある東御(とうみ)市では、信州ウッドパワー(株)が木質バイオマス発電で放射能に汚染された木材を燃料として使いました。リネン吸着法で計測したところ、稼働から3年間は基準以下でしたが、3年後に535.9Bq/kg、2024年には810.1Bq/kgと急増しました。この原因は、最初は放射能に汚染された地域の木材は避けていたのだけれど、足りなくなったので汚染地域から伐採して持ってきた可能性が考えられます。
この発電所の煙突から上る煙をタイムラプスカメラで撮影しました。
<島⽥ 清⼦さん・森 妙⼦さん:関⻄電⼒が計画する使⽤済核燃料サイト内乾式貯蔵施設の建設に関わる30km圏内関⻄住⺠への⼾別訪問調査>
関西電力は、使用済み核燃料を原発敷地内で乾式貯蔵する方針です。これについて30km県内の住民にアンケート調査を行いました。
関西電力では燃料プールが逼迫しています。容量1,730tUのうち1,520tUをすでに使用しています。高浜原発は3年で満杯になります。そこで、2028年には乾式貯蔵施設を運転することにしています。問題点は次のとおりです。
1) 敷地が狭い
2) 自然対流が可能か
3) 気温上昇した場合もキャスクの冷却が可能か
そこで、高浜原発から30km圏内の京都府住民にアンケート調査を行いました。回答があったのは857枚で、78%の人が乾式貯蔵を知らないと答えています。
一方、関電は福井県に50億円の寄付を申し出ています。福井県知事が乾式貯蔵施設を了承する条件は、1)六カ所再処理工場の2026年までの完成、2)国の厳正な審査、3)2035年までに中間貯蔵施設へ搬出、4)50億円の寄付などの地域振興、です。
9月議会では結論を先送りしました。
岡村 聡さん:北海道寿都町と神恵内村における核ゴミの地層処分⽂献調査の批判的検証−「磯⾕溶岩」・「熊追⼭安⼭岩」の放射性年代測定による第四紀⽕⼭の認定−
高レベル放射性廃棄物地層処分場の候補地として、北海道の神恵内村と寿都町が2020年に名乗りを上げました。2024年にその報告書が公開され、パブリックコメントの募集は終わりました。事業主体のNUMOは北海道知事と両町村長に対して概要調査に進みたいと申し入れています。
2023年10月30日に地学の専門家300人あまりが「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない-現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を-」という声明を発表しました。そこでは、現状、日本では高レベル放射性廃棄物の地層処分は不可能と言っています。
それに先立つ11年前の2012年9月に、日本学術会議が「暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築」を提案しています。
変動帯の日本では地層処分の適地はなく、今の技術ではどのような事態が起こるか予測することはできません。
<感 想>
それぞれ発表時間は30分で、さまざまな話題がありました。どの研究も市民科学の威力を発揮した内容です。
福島第一原発の事故に伴って発生した放射能汚染物質が、全国にばらまかれつつあります。原子力情報資料室と高木仁三郎市民科学基金の役割は、ますます大きくなると思います。
この発表会のスライドは、高木基金のウェブサイトから手に入れることができます。
北海道地すべり学会 令和7年度 第1回技術委員会 ― 2025/10/02 16:14
2025年9月26日(金)13時から16時まで、表記委員会が開かれ二件の発表がありました。
Zoomで視聴しました。
平元 万晶氏(国土防災技術北海道株式会社):地すべり調査設計業務で活用する三次元モデリングの基礎
杉本 宏之氏(土木研究所):能登半島地震による地すべり被害と今後の課題
<平元万晶氏>
平元氏はCADを使って、具体的に地すべりブロックと対策工を作成する方法を示してくれました。
一度もCADを扱ったことのないわたしは、口を開けてみているだけでした。
対策工の妥当性をチェックするには三次元CADが有効であることは、充分に分かります。
平元氏がCADをYouTubeで習得したと言っていましたが、まさに今の時代の人だなと感心しました。
なお、国土地理院のホームページで<平元>と検索すると平元氏の「治山事業における点群データの調査、解析、設計への応用」という講演資料を見ることができます。
<杉本宏之氏>
杉本の経歴は次のとおりです。
2004(H16)年 中越地震の時は、湯沢砂防事務所で復興対応しました。
2007(H19)年 能登半島地震の時には北陸地方整備局の本局にいました。
2008(H20)年 岩手宮城地震、2011(平成23)年太平洋東北沖地震、2016(H28)年熊本地震、2024(令和6)年1月能登半島地震を経験しています。
2024年能登半島地震では、土砂災害は456件発生し、河道閉塞は6河川、14箇所で発生しました。
災害の規模が大きいので、国道249号は直轄支援を行い、能登復興事務所を立ち上げました。河川、道路、海岸の復興を担いました。
2024年9月20日からの豪雨では総降水量が350mmを越え、これまで聞いたことが無い降水量となりました。数百年確率の降水量で、震度7の地震の後という悪い条件が重なりました。
国道249号の直轄地すべりは7箇所でした。
珠洲市清水地区は、もともと地すべり地で深度7mの集水井の深度3mで移動しました。
珠洲市仁江地区は、急斜面の崩壊で規模が大きいです。
渋田地区は、ほぼ初成地すべりで流れ盤構造です。
名舟地区は、斜面の風化と岩盤の破砕が進んでいました。深見地区、大野地区も同様の状況です。
大野地区の表層崩壊では三次元的に考えることが大事だと思いました。特に、現場で地元の人に説明するのに有効です。また、地震と豪雨の二つの斜面崩壊の拡大状況の説明にも威力を発揮します。
市ノ瀬地区の崩壊性地すべりでは、崩壊直後に泥流が発生しました。尾根状地形の場所が崩壊しています。もともとの地すべり地形はありましたが、上部は初成地すべりです。斜面に向かって右の水系が地すべり土塊によって切られました。
LPデータの標高差分解析を行いました。地すべりの発生域の規模は、奥行き650m、幅200mほどで緩い斜面で発生した大規模な地すべりです。
このような大規模な地すべりが発生する原因として、一つは山頂付近では地震加速度が増幅される、二つに斜面の足下に弱部があり応力がかかることが考えられます(若井、2008)。
地形的には、尾根は凸型で斜面下部は急傾斜になっていて、側部は侵食されています。ナマコ型の尾根です。水系の発達が悪く、透水性が高いです。
地震地すべりの特徴として、火砕物の風化、ケスタ地形、弱層の存在、流れ盤、風化、岩盤クリープなどがあります。
節理が多くかつ風化している、小断層が随所に見られる、赤色風化泥岩である、母岩の礫の混ざった粘土層がある、すべり面が連続していなくて全体像が分からない、流れ盤地すべりであるが単純な流れ盤に沿ったすべり面ではない、風化フロントの上がすべる、などの特徴があります。斜面下部が急斜面になっている場合、移動土塊が停止しません。
市ノ瀬地区のすべり面の傾斜は9°ですが、末端は14°になっています。 移動土塊は向かって左側の渓流に流入し河道を閉塞しました。流入角(土塊の移動方向と渓流の角度)は57°で、,河床勾配は4°でした。
移動土塊の水分量が多く、すべり面強度が低下していたと考えられます。
凸型斜面、斜面下部が急傾斜、側部侵食、流れ盤、初成地すべりなどが特徴です。
地震地すべりの危険性を評価する手法を実装したいと考えています。その場合、既存の地すべり対策工の効果をどう評価するかが問題です。今回の能登半島の地すべりでは、地すべり防止区域で対策をしていなかった箇所が被災しました。地すべり対策工を検討する際、地すべりが動いているかどうかが対策工実施の判断材料になります。事前防災ができるかが課題です。
実務で使える評価手法が必要です。危険度ランク点数法が行われていますが、動いていないと対策工を事業化できません。
評価手法の確立のために、地すべり危険度を14人が独立に判定しブレーンストーミングにより課題を洗い出しています。
重力変形、尾根の形、斜面下部の急傾斜、側部の開放、湧水・湧泉の有無などが指標になります。
土塊の抵抗力については、すべり面、末端、側部、地下水状況などを考慮します。駆動力としては自重と地震力です。
2024年能登半島地震では、地すべり防止施設が被災しています。地震に強い施設にする必要があります。
大野地区ではアンカー工が実施されていました。地震に耐え効果がありました。アンカーが過緊張状態になっていることが確認されました。
鹿磯(かいそ)地区では急斜面に施工されたアンカー工の下部が動きました。斜面下部に施工したアンカーの頭部への移動土塊の乗り上げが発生しました。この斜面の地質は砂丘堆積物で、土塊としての一体性が乏しい性質です。アンカー頭部での跳ね上げ(受動破壊)の検討、土塊の一体性の確認が必要です。
池原地区ではアンカーのFRP受圧板が変形・破断しました。場所によって地すべり土塊による応力が異なるものと考えられます。
深見地すべりでは排水トンネルが変形しました。対策の対象とした地すべりより深い深度で地盤変動が生じた可能性があると考えています。
清水地区では集水井の深さ14mで3mのズレが発生しました。集水井の機能は損なわれていません。このように、壊れながらも機能を失わない施設とすることが大事です。
地震地すべりでは、雨による地すべりとは地すべりブロックやすべり面深度が異なります。局所的変動が発生します。不動岩盤に施設をつくり機能が失われにくいものとする必要があります。
河川砂防技術基準設計編を性能規定化しようと考えています。
同時に技術開発を進め、ここまではできるけど、あとは逃げてもらう、というふうにします。施設は被災しても機能は生きるようにします。その場合、求められる機能はなにかが問題となります。