研究発表会・講演会 北海道の山岳研究2024/03/09 09:02

 202432日(土)午前920,分から午後530分まで、表記行事が北海道大学・低温科学研究所(低温研)で行われました。主催は、岩花 剛(北大北極センター・アラスカ大)、白岩孝行(北大低温研)、曽根敏雄(氷河・雪氷圏環境研究舎)の三氏でした。

 今回は、降りしきる雪の中、低温研へ行って聴講しました。

 

北大低温科学研究所

北海道大学低温科学研究所

 北大構内の北東隅の第二農場に接していて、林に囲まれています。

 

 午前中は北大などの主に若手研究者の発表が8件、午後は超ベテランを含めた研究者の発表が4件ありました。

 午前中の発表は、ナキウサギ、高山植物、登山道のモニタリング、地表面変動、永久凍土、周氷河地形についてでした。午後は、生態系、昆虫、植物、崩壊と氷河地形についての講演でした。

 

 私が興味を持った幾つかの発表を紹介します.分かりにくい所が多々あります。

 

岩花 剛氏(北大・北極センター・アラスカ大):大雪山系の地表面変動

 地表面が凍結すると土壌中にアイスレンズができ凍上します。これを繰り返すことにより地表面が変動します。

 衛星InSAR(干渉合成開口レーダー)画像を使った結果では、尾根の西斜面では毎年10cmの流動が観測されました。上下方向では2-4cmの移動が観測されました。忠別岳では毎年36cmの変動が観測されました。

 地表変動は6月頃まで沈下し、その後変動はなく10月頃から上昇しはじめ、年変動量は2cmほどです。

 

大野 浩氏(北見工業大学):知床山岳域における気象観測・永久凍土探査

 知床連山の三ッ峯と硫黄山近くの風衝地(露岩地)で2019年以来、観測を行っています。

 気温は20℃から−20℃の間で変動し、年平均気温は硫黄山地点で−0.5℃、三ッ峯地点で0.0℃でした。

 地表面温度は、岩塊斜面では1.02.5℃です。サイシルイ岳の風衝地で行った電気探査結果では、深度1.5m以深で比抵抗が大きくなり、掘削によって氷が確認できました。

 

白岩孝行氏(北大・低温科学研究所):羊蹄山山頂における地温観測結果と周氷河環境

 羊蹄山に山岳永久凍土があるかどうかの調査を行いました。大雪山のパルサは消滅しています。羊蹄山の山頂火口(父釜)の北西に北山を最高点とする母釜と子釜があります。この火口の風衝地である北西向き斜面で、気温、深度9mまでの地温、積雪を測定しました。この斜面にはアースハンモックがあり、深度2.2mまで凍結していることが分かりました。この氷は雨水によって融けてしまいます。

 

曽根敏雄氏(氷河雪氷圏環境研究舎):大雪山における周氷河地形

 周氷河環境というのは、凍結作用が強く働く環境ことで、凍上と融解による隆起と沈下が繰り返し起きる場所です。このような環境では、沢を挟んで雪が積もる急な斜面と反対側のあまり雪が積もらない緩い斜面で非対称な谷ができます。

白雲岳の斜面では岩塊ローブが年2cmほど移動しています。北海岳と白雲岳の間の稜線には、凍結割れ目多角形土が分布しています。

 

石川 守氏(北大・環境院):大雪山永久凍土帯における淘汰構造土

 構造土というのは、凍結融解作用によって形成される幾何学的な形をした地表面の模様や微地形です。多角形土、円形土、条線土などがあります。

 これらの構造土の形成は、自己組織化モデルが適用できるという研究があります。

 大雪山系の白雲岳では、冬は1520/secの西風が吹き、深度1,5m以下に永久凍土があります。傾斜4°ほどの斜面に多角形土や条線土が形成されています。

 

高橋伸幸氏(北海学園大学):大雪山の崩壊地形と氷河地形

 氷河地形は北大雪、表大雪、十勝岳に分布しています。

 忠別岳の北に大規模な崩壊でできた岩塊流があります。全長約1,300m、幅約450mです。この岩塊流の上には1739年のTa-aテフラと1694年のKo-c2テフラが載っています。この頃には、この岩塊流が形成されたことになります。この大規模崩壊の原因は、地震ではないかと考えています。考えられるのは、500600年前とされる旭岳の噴火時の地震です。

 平ヶ岳から南北に延びる尾根の東側に巨大地すべりがあります。この地すべり堆積物の上には、1739年のTa-aテフラ、1694年のKo-c2テフラ、西暦947年以前のB-Tmテフラが載っています。

 平ヶ岳から白雲岳に向かう登山道の1860m付近から1875mにかけて二つの岩塊原が広がっています。このうちの上方の岩塊原はモレーンではないかと考えられます。

 石狩岳の南の尾根を源流とする石狩沢上流(地理院地図ではペテトク沢)に四期の氷河跡が認められます。堆積物中の木片の炭素年代は4.7万年前で、含まれる礫には擦痕があります。また、氷縞粘土や氷河底面に堆積するロッジメントティルもあります。氷河があった時代の雪線高度は標高約1,050mで、この辺りは一面、雪に覆われていたと推定されます。花粉分析の結果からは5,000年前までは冷涼、2,000年前まで温暖、そして再び冷涼になったと推定されています。氷成堆積物や氷河が残した氷の塊の跡であるケトルホールもあります。

 そのほか、銀泉台の径4mほどの巨礫やトムラウシにも氷河の痕跡があります。

 

<感 想>

 北海道の山岳地域の植物、昆虫、周氷河地形、崩壊など様々な分野の話を聞くことができ、興味深い講演会でした。

 北海道自然保護協会の会長をつとめた佐藤 謙さんが、20代の頃に踏査した日高の植物の写真をたくさん見せてくれたのは感激しました。50年経って日高の植生が変化したことを検討する貴重な資料だと思いました。

 高橋氏の講演は私にとっては、かなり刺激的でした。爆裂火口の跡と考えられてきた斜面がカールではないかという話でした。石狩川源流部の氷河堆積物の存在や白雲岳の南斜面の岩塊原はモレーンの可能性があるというのも非常に興味深かったです。この岩塊原の場所は、北緯4339分、東経1425440秒 付近の、なだらかな尾根だと思います。グーグルアースで見ると岩塊原が広がっているのが分かります。


 周氷河環境で形成された斜面堆積物が災害を起こしています。それとは別に、気候変動に敏感に反応する高山地域での研究も重要だと感じました。



第7回 道総研オープンフォーラム2024/03/05 08:02

 2024年3月1日(金)午後2時から5時まで表記フィーラムが、かでる2・7アスビックホールとzoomで開催されました。テーマは「地域に応じたゼロカーボン技術を北海道のすみずみに」です。

 私はzoomで視聴しました。

 

 北大工学部の石井一英(かずえい)教授の基調講演「ゼロカーボン北海道に貢献できる再エネ等の地域資源の活用」、道総研の成果発表、総合討論、ポスターセッションと展示が行われました。

 

 プログラムと講演資料(pdf)は、3月8日(金)まで道総研のウェブサイトで公開されています。

 

 以下、概要を記します。

 

石井一英氏:ゼロカーボン北海道に貢献できる再エネ等の地域資源の活用

 石井氏は土壌地下水汚染、廃棄物や生ごみを資源として活用する研究を行っていました。ものとエネルギーの循環について研究しています。

 

 世界の人口は、2050年には100億人に達すると予測されています。アフリカの人口増加が大きいです。食料需要が増大し肥料としての窒素が必要になります。畜産物の生産が追い付かなければタンパク質クライシスが発生します。海洋養殖が増大します。

 

 二酸化炭素を絶対量として何トン削減できるかが問題です。

 最終エネルギー消費は、暖房・給湯などの熱が約50%、運輸関係が約30%、発電は約20%で熱と運輸が問題です。

 温室効果ガスの排出量測定と見える化、エネルギー診断と省エネルギー対策、設備更新時の効率的な機器の選択、重油から天然ガスへの転換など、実証実験を行いながら少しずつ進めていくことが大事です。身近なところでは、車はコンパクトカーやハイブリッドカーに、住居の構造強化による断熱効果の増大などがあります。

 

 再生可能エネルギー源としては、風力、太陽光、木質バイオマスがあります。今後、洋上風力発電が有力です。

 水素については、鹿追町でバイオマスのガスから水素を抽出する試みが行われています。室蘭や苫小牧でも水素利用が検討されています。

 木質バイオマスは国内林からの供給が平取町で行われています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、農業残渣を燃やすバイオマスバーナーを開発しています。

 

 2021年度の実績で温室効果ガスに対する廃棄物の割合は約3%で、そのうち温室効果ガス削減に貢献できるのは1/3です。

 

 今後は食料生産が鍵になります。そのためには地産地消、地域の連携、エネルギー・食・価値の循環を多くの人を巻き込んで行うことが大事で、ビジョンつくりが重要です。「やりたいこと」だけでなく「やらなければならないこと」にも取り組む必要があります。

 

 歴史的には、自然的循環の中で生活していたのが人為的循環を作り出して生活するようになりました。再びエネルギーを自然から取り出す時代になっています。

 北海道の179自治体の地域ニーズに見合ったエネルギーの生産が必要です。

 さらに、自然を回復させるネイチャーポジティブの視点を持ってゼロカーボンを実現し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を実現ことです。

 

北口敏弘氏(エネルギー・環境・地質研究所):地域特性に応じたエネルギー地産地消モデル構築~戦略研究の成果の概要~

 北海道立総合研究機構(道総研)は、農業、水産、森林、エネルギー・環境・地質、建築の研究所などが集合した組織です。道総研の戦略研究の一つが省エネルギー(省エネ)で、地中熱のような再生可能エネルギーの利用、温泉熱やメタンガスなどの未利用資源の活用を目指しています。

 省エネルギー対応としては、津別町や鷹栖町で街区内の省エネを支援しています。再生可能エネルギーの利用としては当別町の木質バイオマスや地中熱の利用、足寄町での温泉熱などの利用があります。

 

堤 拓哉氏(建築研究本部):脱炭素のまちづくり~公共施設の省エネとエネルギー融通の効果~

 津別町は約6万ヘクタールの森林があります。この森林資源を木質バイオマスとして利用することにしました。

 中心市街地にある公共施設の更新時に省エネ対策を施し、熱資源の運用改善と街区内の熱融通を行いました。運用時のエネルギーを減らすなど役場庁舎の運用改善、エネルギー消費の実態調査、木質バイオマス・ボイラーの使用比率の増大などを行い、木質:灯油の比率を82としました。温水循環ポンプの電力削減、ボイラーの運転時間の削減で41%の電力消費量削減などを実現しました。

 街区の二酸化炭素削減では医療施設のゼロエミッション化(ZEB化)、住宅更新時に50%をZEB化するなど、様々な方法を組み合わせて削減対策を行いました。

 また、既存の木質ボイラーからの熱の融通や施設の省エネルギー化を進めています。

 

白土博康氏(エネルギー・環境・地質研究所):地域特性に応じたエネルギー地産地消モデルの構築~当別町における木質バイオマス・地下水熱利用の取り組み~

 当別町の人口は1.5万人です。融雪システムを設置しています。

 エネルギービジョンの中で太陽光発電と木質ペレット・ボイラーによる再生可能エネルギーの利用を進めています。木質ペレットは森林資源の地産地消になります。地中熱利用は太美地区の地下水の温度が高いことを利用すれば、ボーリング費用を低減できると考えました。

 木質ペレットの生産のため衛星画像を用いてAIで樹種の分類を行った結果、98%正しく認識できることが分かりました。これをもとに試算すると7,000立方メートルの樹木伐採で均衡が取れるとの結果となりました。

 伐り出した丸太は空気の通りが良くなるように井桁に組み、雨にあたらないようにブルーシートをかけることで、3カ月で水分を50%から25%することができました。この木材で木チップを生産し、木チップボイラーでお湯をつくり蓄熱槽にためパネルヒーターで暖房しました。重油ボイラーと併用しています。

 地下水熱は土壌熱と地下水熱の両方を利用するヒートクラスター方式を採用しました。JR札沼線(学園都市線)のロイズタウン駅近くで電気探査を行い試験井戸で確認したところ、深度40m100mのところに水温40℃の地下水があることが分かりました。

 効率良くエネルギーの地産地消が実現できました。

 

鈴木隆広氏(エネルギー・環境・地質研究所):温泉熱と温泉付随ガスのハイブリッド利用モデルの提案~足寄町イチゴ栽培ハウスでの事例~

 足寄町は8割が森林あるいは丘陵で、主要産業は酪農です。

 足寄町の国道241号沿いに「ケアハウス銀河の里あしょろ」と「足寄ぬくもり農園」があります。ケアハウスには銀河の湯の泉源があり、ぬくもり農園には新町1号井があります。ぬくもり農園では温室15棟で通年のイチゴ栽培を行っています。

 ケアハウスの泉源は常時自噴し付随するガスで発電して、ぬくもり農園の断熱効果の良い新棟に送っています。しかし、発電の定格運転ができない、熱交換器は利用していなくてお湯を捨てているといった問題がありました。

 ぬくもり農園の泉源は未利用温泉水がタンクから溢水している、温室の断熱性能が悪く灯油ボイラーで補填しているといった問題がありました。

 そこで、ガス発電機の定格運転ができるガスの確保、温泉熱の確保、温室の断熱性能の把握を行うことにしました。

 ガス発電についてはケアハウスの泉源とぬくもり農園の泉源のガスを混合することで定格運転ができる見通しが立ちました。

 温室の床暖房に温泉水を毎分10リットル追加することで灯油使用料が約100リットル削減できました。

 利用しないで大気中に放散していた温室効果ガスで発電することによって年間約530トンの温室効果ガスを削減できると推定されました。

 

 この後、総合討論が行われ、津別町、当別町、足寄町の方がそれぞれ発言しました。

 

<感 想>

 派手さはないですが、それぞれの自治体で身の丈に合った再生可能エネルギーの利用が進んでいることがよくわかりました。

 基調講演をした石井氏が指摘するように、今の時代は技術の進歩によって循環している自然エネルギーを効率よく利用する時代に入ったとおもいます。石炭・石油の時代は終わり、夢の原子力の時代も終わりを迎えようとしています。

 地球上で人類が生存し続けるためには、自然エネルギーを効率よく使う技術、エネルギーを無駄にしない技術をさらに開発することが重要です。文明の転換点に差し掛かっているように感じます。


第62回 試錐研究会2024/02/22 11:56

 2024219日(月)午後1時から5時半まで、札幌サンプラザの会場とzoomで表記の講演会が開かれました。

 全体の進行役は資源エネルギー部の田村 慎氏、講演会の座長は資源エネルギー部の鈴木隆広氏でした。


 講演資料集は、エネルギー・環境・地質研究所のウェブサイトからダウンロードできます。

 

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プログラム

【開会の挨拶】

 ☆北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所所長 大津 直氏

 

【特別講演】

 ☆点群による地形画像とコアスキャナ技術が拓く地形・地質情報のDX化 東北大学災害科学国際研究所 特任教授 原口 強氏

 

【一般講演】

 ☆高品質ボーリングコアを用いた周氷河堆積物の観察および解析 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 研究主任 小安浩理氏

 ☆高品質・定方位ボーリングについて 有限会社ACE試錐工業 取締役技術部長 福間 哲氏

 ☆地下水熱(オープンループ方式)利用の現状と課題 株式会社アクアジオテクノ技術部 資源開発グループ 課長 岩佐 大氏、地盤環境グループ 課長 若狭靖之氏

 ☆道民の暮らしと産業振興を支えてきた掘削の歴史とその技術 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 専門研究員 高橋徹哉氏

 

【閉会の挨拶】北海道地質調査業協会 理事長 千葉新次氏

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<原口氏>

 はじめに能登半島地震の概要を話しました。

 

 本題は、まず地形画像診断です。

 2003年の三陸地震で地上レーザ測量を行いました。地震によって陥没した地形が検出できました。

 2004年の層雲峡、天城岩の崩落壁面をレーザ測量で三次元計測しました。岩盤の引張り強度を越えた力が働き崩壊が発生したと推定しました。

 カンボジアのアンコールワット遺跡、マヤの古代遺跡などのレーザ測量で成果を上げました。

 

 地形判読から発展させて地形画像解析を行っています。

 航空レーザ測量による点群を取得し画像化します。最近はUAVを使ったレーザ測量により数時間で地形データを得ることができます。この地形図を持って現地調査を行い、地形のつながりを確認し、ボーリング位置の選定などを行います。

 

 耶馬溪の斜面崩壊では樹木と地表線の断面図を作成しました。樹木が山側に倒れていることがわかり、崩壊の動きを捉えることができました。

 

 グリーンレーザを使うことにより河川や湖の底の地形の点群データを取得できます。点群と段彩図を併用して河川の網状流路を捉えました。

 

 202173日に発生した熱海市の土石流現場では、2009年の国交省の点群データ、2019年の静岡県のデータ、崩壊発生後の2021年のドローンによるデータを使い、崩壊前後の地形変化がわかりました。崩壊地の判読だけでなく、赤外線映像を使って水が地表をどう流れているかを掴むことができました。

 

 画像解析は、データの重ね合わせができること、現場の担当者に理解しやすいこと、事実を表すデータ(ファクトデータ)であること、が特徴です。

 

 ボーリングコアの画像解析は、肉眼でのコア観察に比べて個人差が出にくい、過去のコアの再判定が可能でコアの劣化過程を見ることができるといった利点があります。また、膨大な量のコアの保管場所を必要としません。

 

 ワゴン車に積めるほどのスキャナ装置を作成しました。

最初はコア1mごとにスキャンしていましたが、コア箱ごと撮影できるようにしました。スキャンにより礫などの内部の含有物がわかりX線解析では見えない構造が見えてきます。同時にラインカメラで画像を得ることにより歪のないコア写真が撮れるほか、七つの画像を取得できます。

 

<小安氏>

 高品質コアによって周氷河堆積物中の粒子の三次元解析などコア解析を行いました。

 礼文島の東海岸には平滑な周氷河斜面があります。以前は災害が少なかったのですが、最近、豪雨による土砂災害が発生しています。

 

 周氷河堆積物はシルトと砂礫の縞模様がある角礫主体の淘汰の悪い堆積物です。これまで、ボーリングではうまくコアを採取できませんでした。高品質ボーリングで良好な試料が得られるようになり、肉眼観察+XCT画像+樹脂固化薄片による顕微鏡観察が行えます。

 

 まず肉眼観察を行い、道総研のXCTスキャナによる撮影を行い、樹脂固化した薄片観察を行いました。

画像粒子解析によって含礫率を出し、二値画像で粒子の量比を測定し体積含水率を出しました。粒子を近似楕円で表し軸比を出してファブリックを求めました。

 

 原位置での透水試験はある区間での透水係数を求めることになりますが、高品質コアを使って室内透水試験を行う場合、層相ごとに試験を行うことができます。

 

 CUbarの三軸圧縮試験を行いました。間隙水圧により有効応力が大幅に低下することがわかりました。緩く詰めた砂に相当し、粘性土に似た挙動を示しました。

 

<福間氏>

 有限会社ACE試錐工業が考える高品質ボーリングは、送水量、水圧、ビット荷重、回転数、掘削速度の管理によって掘削し、不攪乱で採取率100%のコアを採取します。いわゆる泡掘りのように気体を使わず掘削流体を使用する工法です。

 

 2007年に定方位ボーリングを開発しました。

 このボーリングの考え方は、掘削中はビットの先の地盤とコアチューブ内のコアは繋がっているということです。掘削したら内管と外管を固定することによって定方位コアを採取します。

 (この後、内管と外管の固定方法についての実演がありました)

 

 高品質と定方位のボーリングで採取したコアで層理面、亀裂、断層、すべり面の情報を得ることができます。実績としては、忠別ダム、南富良野町、礼文島、豊平川の河川堆積物などのボーリングがあります。

 

<岩佐氏および若狭氏>

 外気温と地中温度(地下水温度)の差を利用して地中熱を取り出すのが地下水熱利用です。札幌の場合、地下水の温度は年間を通じて9℃程度ですので、夏も冬も温度差が生じます。熱を取り出す方式には、クローズドループ方式とオープンループ方式があります。

 

 ここで紹介するのは、帯水層から地下水をくみ上げて熱を取りだし、その水を帯水層に戻すオープンループ方式です。揚水井戸と還元井戸が必要で、目詰まりなどの機械設備障害を減らすには水質が大事です。

熱源の性能評価では、エアコンが程度であるのに対し、7.3という高い効率を示しています。

 地下水をくみ上げて直接熱を取り出すので、地下水障害に対する検討が必要です。帯水層の地下水低下、地盤沈下、配管の目詰まり、場所によっては地下水の塩水化などについて検討します。

 帯水層の選択には井戸データベースを活用し、地下水低下が起こらない安全揚水量を求めます。10年後の地下水低下量を予測します。

 

 アクアジオテクノの新社屋は、オープンループ方式で帯水層に蓄熱して地下水熱を利用しているほか太陽光発電も行っています。照明制御とフロアごとのヒートポンプを備えてZEB(ゼロエミッションビル)を実現しています。

 井戸管理は水位、水量、水温、水質を管理しています。

 

<高橋氏>

 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所は、地質調査と資源調査を主な目的として1950(昭和25)年に設立されました。

 

 地下資源調査所設立前の温泉調査としては、1924(大正13)年に鹿部間欠泉の調査、1926(大正元)年に奇跡の湯といわれた豊富温泉の調査が行われました。豊富温泉は石油掘削井戸から温泉が湧出し、天然ガスを利用しています。瀬戸瀬温泉や壮瞥温泉も、この頃調査を行っています。

 石狩低地では水溶性の天然ガスが開発されました。これらの調査は1960年代半ばまでです。

 

 1964年に試錐研究会が始められました。

 鹿部地区は地熱の農業利用の先駆けとなりました。層雲峡の白水地区では地熱調査が行われ、5本の井戸が掘られましたが噴気には至りませんでした。ここは、環境庁が地熱開発を許可しませんでした。

遠別のガス田、羅臼の地熱開発なども行われました。

 

 地下水調査、地盤沈下調査、水資源やセラミック資源の調査、鉱床調査、温泉資源調査などが行われました。1982(昭和57)年に熊石、1984(昭和59)年に浜益、壮瞥の温泉調査を行いました。

1984年には1500m掘削できる試錐機が導入され、1995年にはスーパーアームロボで掘削管の着脱が油圧機械でできるようになりました。デジタル検層器やボアホールカメラも使われるようになりました。

 

 地熱の農業利用では森町が先進地です。

 弟子屈では温泉暖房が行われ、モニタリングシステムが稼働しています。地熱による小規模発電も行われようとしています。

小清水町では温泉の多目的利用を行い、6源泉のモニタリングを行っています。

 洞爺湖温泉は温泉の湧出量が減少傾向にありました。特に2000年の有珠山噴火以来、深刻になっていました。1985年に四十三山での温泉開発は不発に終わりました。1987年に浅部に高温の温泉水があることがわかりました。2013年に地熱構造試錐井を掘削したところ、深度800m172℃の温泉を得ることができました。バイナリー発電を行い、その後、温泉水として配っています。

 礼文島では2006年に3カ所の温泉候補地を決め、2007年に深度1303mから50℃の温泉水を毎分200リットル湧出させることに成功しました。

 函館市の湯の川温泉では2003年から2006年にかけて泉源の集約化などを行いました。

 

 掘削技術の進歩では、苫小牧の勇払油ガス田の開発があります。ここで使われたボーリング機械は、掘削深度5,000mが可能で、深部での水平掘削もできます。

 チリのサンホセ鉱山の落盤事故では救出用の大口径ボーリングを掘削しました。

 

 トップドライブシステム、耐摩耗性・耐衝撃性に優れたPDCビット、ダウンホールモーター(DHM)を使った傾斜掘削などの技術が開発されています。

 

 二酸化炭素を地中に貯留する二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)や二酸化炭素を燃料や化学原料として有効活用する技術(CCUS)などでもボーリング技術の進歩が貢献しています。

 メタンハイドレイトの開発にもボーリング技術が必要です。

 

 今後は、掘削コストを低くすること、温泉の適正開発、メンテナンスを考えて大口径での温泉開発を行うこと、地下水の適正開発と利用、防災井戸の設置、高品質ボーリング技術の応用などがあります。

 地下熱利用を進めることや掘削技術者を育成することなどの課題があります。

 

<感 想>

 高品質ボーリングの威力は絶大です。ACE試錐工業が採用している気体を含まない掘削流体を使っての掘削は、採取試料を使っての各種室内試験、特に化学分析などに必須です。コアスキャナ技術が威力を発揮するのも高品質ボーリングの試料があってこそといえます。

 

 私が地質コンサルタント会社に入社した当時は、破砕された岩盤は礫状のコアになったり、砂礫はほとんど試料が取れなかったりでした。特に難しかったのは、上部蝦夷層群の付加体堆積物です。北海道のボーリング業者は、金属鉱山や石炭鉱山の試錐部の仕事をしていた人たちが多く、コアの品質にはあまり注意していなかったように思います。

 

 当時でも、本州には送水量と給圧を微妙に調整して綺麗なコアを採取するボーリング業者がいました。北海道の業者の人に勉強に行くよう助言して、何年か本州の会社で修行した人もいました。

 

 地中熱の利用は、今後も発展が期待できる分野です。

 同時に、熱水で直接タービンを回さないバイナリー発電は、もっと普及して良い分野です。

 2009年にアラスカへオーロラを見に行った時、チェナ温泉(Chena Hot Springs)でバイナリー発電施設などを見学したことがありました。日本から来ている職員もいて、日本でもバイナリー発電をもっと利用すれば良いのにと言っていたのが印象的でした。温泉水の温度が80℃あれば発電でき、使った温泉水は暖房や浴場で使うことができます。

 弟子屈町ではバイナリー発電を検討していますが、寒冷地であるため発電が不安定になるという課題があるようです。

 

バイナリー発電機

 アラスカ・チェナ温泉のバイナリー発電機

 

 全体として、非常に興味深い講演会でした。



本の紹介:大規模言語モデルは新たな知能か2024/02/20 14:08

大規模言語モデル

 岡野原大輔、大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界。岩波科学ライブラリー31920236月。

 

 202211月に登場したChatGPTGenerative Pre-trained Transformer)は、大規模言語モデルを使ったサービスです。言語モデルとは「文に対して確率を割り当てることのできるモデル」(本書 54P)です。意味の通る文に高い確率を与えることで、文章を生成します。

 

 この基礎となっているのが1948年に発表されたシャノンの情報理論で、情報量という概念を導入して文章の意味ではなく、その事象がおこるであろう確率のみで情報量を定義しました。

 

 脳の神経回路を参考にしてつくられたニューラルネットワークを利用して文章の次の単語を予測しています。その特徴は、簡単な計算を実行する部品をたくさん組み合わせて複雑な計算を実現していることです。

 

 計算機は、学習したことの暗記は得意ですが、学習で記憶していない未知のデータに対しても、うまく予測できるような仕組みを作ることができます。汎化機能といいます。そのためには、文法や単語の意味を理解するルールや法則を計算機が獲得する必要があります。現在の言語モデルは、これらを達成しています。

 

 注意機構というのがあって、遠く離れたニューロンにある情報も直接壊さず集約できます。これも脳の機能に似ています。

 

 大規模言語モデルの大まかな仕組みと使い方、今後の発展方向などを大まかに知るには絶好の本です。



本の紹介:ガザとは何か2024/02/15 17:24

 

ガザとは何か

 岡 真理、ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義。大和書房、202312月。

 

 ガザを支配しているハマースというのは、イスラーム主義を掲げる、イスラエルからの民族解放を求める運動組織です。2006年のパレスチナ立法評議会選挙で多数を占め、政権を獲得しました。

 これに対して、イスラエルは2007年にガザを完全封鎖し、現在もその状態が続いています。完全なイスラエルの植民地としているのです。

 

 パレスチナの問題の核心は、「イスラエルとは何か」を建国の歴史から捉えることです。そして、イスラエルという国家とユダヤ人を同一視しないことです。

 

 2023年の10月下旬に京都大学と早稲田大学で行われた講義をまとめ、同年1231日に発行されたのが本書です。

 

 二つの講演は下のQRコードから見ることができます。

 

 ぜひ、多くの人が、本を読み、講演の動画を見て、声を上げてほしいと思います。

 

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 京都大学での講演(YouTube

 < https://www.youtube.com/watch?v=8TtXbIi446I&t=1s 

 45分ほどです。

京都大学での講演


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 早稲田大学での講演(YouTube

 < https://www.youtube.com/watch?v=-baPSQIgcGc 

 2時間ほどです。

早稲田大学での講演


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