第63回試錐研究会 ― 2025/02/23 11:32
2025年2月19日(水)13時から17時半まで、北海道総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所主催の表記の講演会が札幌サンプラザで開かれました。私はオンラインで視聴しました。
プログラムは下のようでした。
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■ 開会の挨拶
北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所
所長 大津 直
■ 特別講演
☆地質情報提供の進化—多様な利活用に向けた持続可能なデータ基盤構築
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報基盤センター 整備推進室長 内藤 一樹
■ 一般講演
☆北海道における地質地盤情報整備・提供に関するエネルギー・環境・地質研究所の取り組み
北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所地域地質部 地質環境グループ 主任主査 廣瀬 亘・地域地質部 地質環境グループ 主査 加瀬 善洋
☆札幌地盤図と表層地盤の特徴について
北海道土質コンサルタント株式会社 取締役統括技術部長 松本 和正
☆防災井戸・国土強靭化生命の基本
全国さく井協会九州支部 支部長 岩隈 一幸
☆地下資源調査所からエネルギー・環境・地質研究所へ
北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 所長 大津 直
■ 閉会の挨拶(17:20 ~ 17:30)
北海道地質調査業協会
理事長 千葉 新次(代理:副理事長 今 秀俊)
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いずれの講演も面白い内容でした。
地質図Naviの進化、エネルギー・環境・地質研究所の地質情報の整備と公開、新しい研究手法と解釈による未刊行の5万分の1地質図幅の作成、札幌の表層地盤図、災害時に重要な生活雑用水の話、地下資源調査所からエネルギ-・環境・地質研究所への変遷の歴史などです。
特に、私にとって衝撃的だったのは、岩隈一幸氏による災害時の水の問題でした。岩隈氏の講演の概要を記します。
全国さく井協会九州支部 支部長 岩隈 一幸:防災井戸・国土強靭化生命の基本
災害時の水と言えば飲料水と考えるのが普通です。しかし、避難所で飲料水が手に入らず亡くなった被災者はいないと言われています。2016年の熊本地震では、翌日から飲料水が届けられました。しかし、その水は余ってしまい処分しました。飲料水や給水車の水を生活用水に使うことが心理的にできなかったのです。
実際はトイレや風呂などの生活雑用水が手に入らず亡くなった方が多数います。
地震などの災害で断水した場合の災いは、四つあります。
1. 血栓症や誤嚥性肺炎による災害関連死
トイレに流す水が無いため、汚いトイレを使いたくないのでトイレを我慢し、水を飲まないために起こります。
2. コロナ・インフルエンザ・ノロウィルスなどの感染症
手洗いをするきれいな水が無いため、感染症にかかりやすくなります。
3. うつ病などの精神疾患
身体や髪を長い間洗えないストレスに加え、避難所の排泄物の臭いなど、避難所の環境によるストレスでうつ病が発症した例があります。
4. 治安の悪化
水を分けてもらう避難者のふりをして窃盗を行う泥棒が出ました。
2016年の熊本地震直後、最も必要だったのは飲料水とトイレに流す水で、重要と答えた被災者は両方合わせて80%でした。避難所で飲料水が不足して亡くなった人はいないと言われています。しかし、水不足で被災者が亡くなっています。水道水など普段の生活で使っている水が得られないで人が亡くなる過程は次のようです。
災害によって断水します ↓ 水洗トイレが汚物まみれになります ↓ 汚物まみれのトイレに行きたくない ↓ トイレに行かなくて済むように食事や水分の摂取を控える ↓ 水分不足により血栓ができ死に至る
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死なないまでも避難生活で精神疾患になる人がいます。過ストレスによるうつ病や認知症の進行が起きます。しかし、症状がひどくなると自殺の原因につながりかねないという現実があります。
生活用水が不足するために起きる精神疾患には、次のようなものがあります。
1. 他人の排せつ物の強烈な臭い(風向きによっては避難所内に臭ってくる) 2. トイレに行くたびに見る山盛りの他人の排せつ物の臭いと光景 3. 長期間、身体を洗えないストレス 4. 長期間、洗濯ができないストレス 5. 長期間、髪を洗えないストレス 6. 手を洗うことができず、蔓延する感染症におびえるストレス
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災害時にはきれいな水が最も重要で、豪雨災害では泥水で汚れた家屋や家具を洗うために大量のきれいな水が必要となります。
1. トイレ→排泄された封尿を流す 2. 手洗い→トイレで用を足した後、石けんを使って手洗いできる設備が必要 3. 歯磨き→口腔内の洗浄・病気の予防 4. 食器の洗浄→病原菌に感染するのを予防 5. お風呂→精神的ストレスの発散 6. 洗濯→下着など毎日洗濯が必要 7. 洗浄→水害に遭った家具や住居など
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大人一人当たり必要な飲料水は、一日3リットル(厚生労働省)とされています。同じく生活雑用水は約210リトル(熊本市の節水目標値)です。
*一般には、生活雑用水の必要量は10〜20リットルと言われています。しかし、風呂や水洗トイレを入れると、こんな量では収まりません。普通のお風呂は200リットル入ります。水洗トイレは「大洗浄レバー」の場合4〜8リットル、「小レバー」では3〜6リットルの水を流します。
2016年の熊本地震の時には、プールから水を汲んできておいてトイレで用を足した後バケツ2杯の水を流すよう指示されていました。小学校などにある25mプールの水の量は36万リットルです。避難者500人いる場合3日分です。
さらに、余震が続く中でプールの水を汲むというのは危険が伴いますし、地震によってプールはひび割れて水漏れします。
災害用のトイレとして落下式マンホールトイレがあります。昔のポットン便所です。しかし、これは非衛生です。
地下水を使った次世代型水洗式マンホールトイレがあります。トイレの下に水が流れるようにして排せつ物を処理します。水は、停電しても大丈夫なように手押しポンプの防災井戸から供給します。これに、4立方メートルくらいの貯留層を設ければ、下水管が破損していても当面トイレは使えます。
防災井戸と耐震性貯水槽を「道の駅」などに設けるのが良いと考えます。貯水槽の水は飲用にも使えます。防災井戸は手押しで50m下から水を汲み上げることができ、3歳児でも水を汲むことができます。
役所や小学校など色々なところに防災井戸を設け、様々な災害に対応できるようにするのが良いです。
熊本地震で被害の大きかった甲佐町では、地震発生前から設置してあった4箇所の防災井戸が損壊しないで水を供給できました。地震発生の4月14日から16日までの3日間で震度7が2回を含む震度6弱以上の地震が7回起きました。防災井戸の有効性が実戦で証明されました。災害時にはネットワークではなく点で多くの水源があった方が強いのです。
なお、この発表会の講演資料集は、エネ環地研のウェブサイトからダウンロードできます(2025年2月23日確認)。
2025年 札幌国際スキーマラソン ― 2025/02/17 14:19
2025年2月2日(日)に行われた表記大会の歩くスキー10kmに出ました。
今年の申込者は50kmから4kmまで、すべて含めて823人、そのうち歩くスキーの10kmは66人でした。非常に寂しい大会となりました。
1月に、ほとんど雪が降らなかったので25kmのコースが整備できなかったようで、50kmは10kmコースを3周、25mは10kmコースを2周に短縮されていました。
計測チップ(SEIKOトランスポンダシステム)は、10km以下の参加者には配布されませんでした。
私はGPS時計で計測し、時間は1時間31分51秒でした。しかし、ウェブサイトに載っていた記録は、1時間42分28.2秒でした。2月17日に確認したところでは、大会のウェブサイト(リザルト)から10km以下の記録は消えています。
なお、GPS時計での10kmコースの距離は約9.3kmでした。トレイルランニングやクロスカントリースキーでは、距離は目安なので目くじらを立てることもないですが、ちょっと誤差が大きすぎる気がします。
今回はスキーがよく滑りました。特に7km過ぎから8.6kmまでの下りは気持ちよく滑ることができました。ほぼ全コース、歩くスキーのレーンが2列ついているので歩きやすいです。
図 2025年 札幌国際スキーマラソンの10kmコース
その昔、札幌国際スキーマラソンは冬の一大行事でした。
当初は羊ヶ丘展望台発着でした。50kmコースは白旗山競技場がちょうど30kmになっていて、公式記録を取ってくれました。なので、つらい時はここで止めても、それなりに満足感がありました。
札幌ドームに発着会場が移って白旗山競技場は31kmとなり、記録も取ってもらえなくなりました。札幌ドームの中で着替えなどができましたので、それなりに環境は良くなりました。また、地下鉄東豊線の福住駅から歩いて行けるので楽でした。
そして、白旗山競技場が発着点となりました。送迎バスはありますが、基本的に車でないと行きづらくなりました。楽しみながら参加する小学生や中学生が一番減ったと思います。
冬のスポーツを多くの市民が楽しむようになれば、冬のオリンピックを札幌で開くことも良いかもしれません。しかし、今の状況を見ていると、段々と尻すぼみになっています。世の中全体の経済状況もありますが、これを回復するのは容易ではないでしょう。
札幌市の前田森林公園 ― 2025/01/24 16:25
札幌市の西に約12km直線で続く新川があります。北大構内を流れてきたシャクシコトニ川、琴似川、琴似発寒川、中の川、手稲土功川、濁川などが南西から合流しています。札幌西方山地から低地に流れ込む河川による水害を防止するために、1887(明治20)年に開削された人工河川です。北海道マラソンの折り返し点がこの新川沿いの道路にあります。
新川の河口から約5kmのところで中の川と追分川が合流します。この川は北東に流れて発寒川と呼ばれています。発寒川は古い砂丘(紅葉山砂丘)の内陸側を流れています。紅葉山砂丘は、縄文海進(約6,000年前)にできた砂州の名残とされています(例えば、石狩ファイル0081-01(2007年3月30日)。
前田森林公園は砂丘の海側にあり、周辺は牧草地が広がっています。1982年から10年かけて造成された公園だそうです。
図1 前田森林公園周辺と歩くスキーのコース
新川が南東から北西に流れています。この図の南端付近から北東に流れているのが発寒川で、この北西側に紅葉山砂丘があります。砂丘の陸側(右下)は標高2.5mほどで、前田森林公園付近は標高5mほどあります。
赤い線が前田森林公園の歩くスキーのコースで、カナルに沿って約500mのスケーティング用コースの一部があります。歩くスキーのコースは、ごく一部が1レーンですが2レーンあります。高低差は最大で15m程度で、坂らしい下りが2箇所あるだけです。
写真1 歩くスキーの出発点
冬の駐車場は新川側にしかありません。白樺林が印象的です。歩くスキーを借りるには、こちらの駐車場に車を置いて、二線付近の管理棟に行かなければなりません。ここでは、スケーティング用のスキーも貸してくれます。
写真2 カナルと手稲山
約500mのカナルと、その向こうの手稲山です。カナルの両側はスケーティングコースの一部になっていて、歩くスキーのトレースはついていません。
写真3 カナル
南西の端から見たカナルです。両側はポプラの木です。枝の先端を切ったので数年経つと葉が一杯出てくるでしょう。
写真4 芝生広場
写真5 歩くスキーの東端付近
野球場やサッカー場の間を通っていきます。2本のレーンがついています。できれば、毎朝付け直してほしいです。
写真6 カナルに向かって下る
ちょっと坂らしい坂です。まっすぐカナルに向かって行っても問題ないですが、歩くスキーのコースは坂の下で右に直角に曲がります。
写真7 ゴール
公園の説明書ではコースの距離は2.5kmとなっていますが、GPS時計では3周とも2.4kmでした。誤差の範囲でしょう。GPS時計の高度は3周とも違っているようで、標高グラフの再現性は低いです。
本の紹介:迷い沼の娘たち ― 2025/01/20 09:23

ルーシー・ストレンジ、中野怜奈訳、迷い沼の娘たち。静山社、2024年11月。
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はじめの娘は玉の輿
家にのこすは二番目よ
農家についた娘なら
三人目の子に害はなし
四人目、五人目、嫁にやれ
さなくば六番目の娘
親の骸をうめるだろう
迷い沼につたわる「六人の娘の呪い」
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上の文言は、本書の冒頭に書かれている言い伝えです。
多くの沼に囲まれた湿地の中の村に住む六人の姉妹の話です。
話の中心は三番目の娘、ウィラです。それぞれの娘は、個性豊かで魅力的です。それに姉妹のおばあちゃんも魅力的です。
この本を紹介していた新聞の欄では、中学生向きと書いてありましたが、大人が読んでも十二分に面白いです。色々な読み方があると思いますが、私は六人の個性を楽しみながら読みました。
翻訳者の「あとがき」によれば、この話はイギリス南東部のロムニーマーシュ(ロムニー湿地)に住む人たちの生活が土台になっているとのことです。Google Earthで見ると、イギリス海峡に面した海岸から5kmほど入ったところにオールド・ロムニーがあり、同じく2kmほどのところにニュー・ロムニーがありあます。いずれの町も畑に囲まれています。 物語の頃の自然が残っているのは、南のダンジネスの辺りだろうと思います。見事な砂丘列があり、海跡湖と思われる湖が点在しています。