シンポジウム「トンネルと地下水」 ― 2022/09/26 20:37
2022年9月17日午後1時から5時まで、日本地下水学会シンポジウム「トンネルと地下水」がオンラインで開かれました。プログラムは次のようでした。
<開会挨拶>
中島 誠:日本地下水学会副会長
<講演>
・北陸新幹線深山(みやま)トンネルにおける地下水対策(大東憲二氏:大同大学)
・瑞浪超深地層研究所 研究坑道掘削における湧水抑制対策(見掛信一郎氏:日本原子力研究開発機構)
・福岡市地下鉄七隈線トンネル陥没事故における地下水の変化と事故後の対応(三谷泰浩氏:九州大学)
・中央新幹線南アルプストンネル(山梨工区)掘削時の地質、地下水状況と施工上の対応について(佐藤岳史氏:東海旅客鉄道㈱)
<パネルディスカッション>
「トンネル掘削における適切な地下水管理等の在り方」(司会 竹内真司:日本大学)
<閉会挨拶>
徳永朋祥:地下水学会会長
印象に残った内容を簡単に述べます。
・北陸新幹線深山トンネル
当初計画ではラムサール条約登録湿地である中池見(なかいけみ)湿地に影響を与えるということで、平面・縦断線形を変更しました。さらに円形断面としてウォータータイト・トンネル(非排水防水型トンネル)にしました。着工する4年前から流量、地下水位のモニタリングを行い、施工後もモニタリングを行っています。施工中に周辺の地下水位が低下し、貫通後も水位は回復していません。
<感想>
トンネル掘削側としては、ほぼできることを行っている印象です。しかし、長期的に地下水位が回復しないと湿地への影響が出る可能性は否定できないように思います。
このトンネルでは、「北陸新幹線,中池見湿地付近環境事後調査検討委員会」で検討を行い、ルートと縦断勾配を変えウォータータイト・トンネルに構造変更しています。
ウォータータイト・トンネルは掘削土量が多くなり、完全に遮水するので覆工に水圧が作用し支保構造も重くなります。湿地保全のためこのような変更を行ったことは「公共事業」のあり方を示していると思います。
このトンネルについては、日経XTECHに「北陸新幹線のトンネルを防水型に、ラムサール湿地を保全」(2018/11/12 )、「ラムサール条約湿地で沢枯れ、北陸新幹線の工事中」(2020/01/28 )という記事が載っています。
・中央新幹線のトンネル掘削時の地質,地下水状況と施工上の対応
中央新幹線の南アルプストンネルの山梨工区は最大深度900mです。
発破掘削でNATM工法を採用しています。広河原斜坑では毎分570〜700リットルの湧水がありました。先進導坑で地質を確認し、500〜1,000mの超長尺コントールボーリングの掘進記録とスライムで前方地質状況を判定しています。トンネルの変位は、取り外しができるターゲットとトータルステーションで0.1mm単位での計測を行っています。初期地圧の測定も行っています。
<感想>
これまでの山梨工区の工事では、大深度で亀裂が密着しているためトンネル本坑での湧水は少ないとのことでした。トンネルの内空変位(ひずみ量)は、天端沈下に比べ水平変位が大きい傾向がはっきりと出ています。この付近では水平方向の地殻応力が大きいためのようです。
中央新幹線(リニア新幹線)については、大井川の流量がどうなるかが大きな問題となっています。この地域の地質・水文特性が明らかになりつつあるのは今後の工事の参考になるでしょう。
しかし、正念場は南アルプスの下を抜くこれからの工事です。大井川の下を抜き、最大土被り1,500mの赤石山脈(南アルプス)の下を通り、小渋川で一度顔を出します。再びトンネルとなり、小渋川支流の青木川の下を通過し、天竜川で地上に出ます。青木川の東斜面は中央構造線が通っていて地すべり多発地帯です。蛇紋岩の出現も予想されます。小渋川と青木川の間は、土被りはそれほどありませんが地質的にはもっとも注意が必要な区間だと思います。
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