シンポジウム 巨大地震と津波2022/03/23 16:11

 2022321日(月:春分の日)13時から1630分まで北海道大学地震火山研究観測センター シンポジウム「巨大地震と津波−千島海溝沿いの巨大地震に備える−」が開かれました。

 

 講演者と題目は、下のとおりです。

 

■高橋浩晃氏(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター 地震観測研究分野 教授)

千島海溝沿いの巨大地震津波災害軽減に向けた総合研究

西村裕一氏(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター 地震観測研究分野 准教授)

地層から知る千島海溝沿いの巨大地震津波の履歴

■高井伸雄氏(北海道大学大学院工学研究院 准教授)

千島海溝沿いの巨大地震による強震動災害

■橋本雄一氏(北海道大学大学院文学研究院 教授)

千島海溝沿い巨大地震による津波避難を科学する

 

 講演の概要を紹介します。

 

高橋浩晃氏:千島海溝沿いの巨大地震津波災害軽減に向けた総合研究

 地震は予知できません。ですので、事前に備えることが大事です。ただし、揺れの強さ、津波の浸水域、被害の様相をある程度想定することは可能です。科学と技術を駆使して対策を行うことで被害を減らすことはできます。

 北海道の襟裳岬から東では、十勝沖、根室沖、色丹島・択捉島沖などで地震が発生します(1参照)。北海道では遡っても250年前までしか文書による記録がありません。

 2003年に十勝沖地震がありました。その後、20年間大地震がありません。霧多布湿原では6,500年間に15回の津波堆積物が見つかっていて、340年〜380年間隔で巨大津波が発生しています。

 地震調査研究推進本部(地震本部)では千島海溝南部ではM8.8の地震が30年以内に発生する確率が740%としています(202211日)。最大を想定して対策をすることになっています。

 20217月に北海道津波浸水予測図が公表されました。函館、苫小牧、釧路では20分以内に1mの津波が襲来します。

 北海道の太平洋岸は低地が多いのが特徴です。今回の浸水予測図では、釧路市の浸水予測範囲は、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大地震)で浸水した石巻市の面積の2倍になります。

 対策としては堤防の二線化が効果的です。被災時の災害を減少させること、被災後の早期復旧・復興が行えることが重要です。

白糠町では高台移転を行いました。浜中町も庁舎の高台移転を行いました。

 科学的には、津波の事前予測、地震の揺れの事前予測、避難計画の最適化が重要です。根室沖では3カ所に海底ひずみ計をおいて観測を行っています。ひずみの蓄積には、12011年の東日本大地震のような海溝軸の浅い部分にひずみが蓄積するタイプと22003年の十勝沖地震のように浅い部分にひずみの蓄積がないタイプがあります。

 2011年の東日本大地震では内陸の国道や高速道路の通行を確保し海岸部へ救援物資などを運びました。しかし、北海道は島なので被災後の救援などでは航路の啓開が必須になります。

 

道東の地震域

1 千島海溝沿いの長期評価対象領域

(地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2017,千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)、21P

 襟裳岬から東の、十勝沖、根室沖、色丹島沖および択捉島沖のプレート間地震の震源域を示しています。

 

西村裕一氏:地層から知る千島海溝沿いの巨大地震津波の履歴

 今、青森県三沢市の海岸の松林の中にいます。この防風林の地面の下に、2011年東日本大地震の津波堆積物があります。三沢市では2011年に58mの津波が襲来しました。地面を掘ると、下から砂丘堆積物、2011年津波前の土壌、2011年の津波堆積物、津波後の土壌の順で見ることができます。

 能代市でも調査を行いましたが、1983年の日本海中部地震の津波堆積物があります。

 ロシア沿海州で津波堆積物調査を行いました。ここでは、1983年の日本海中部地震の津波堆積物と1993年の北海道南西沖地震の津波堆積物が検出できました。

 津波堆積物調査の流れは下の図のようになります。

 

波堆積物判定流れ図

図2 津波堆積物の認定フロー(後藤ほか、201748P

 

 イベント堆積物には、洪水、高潮、津波などの堆積物があります。その中から、津波堆積物の堆積学的特徴を持っている堆積物を抽出します。微化石などによって海水起源の堆積物かどうかを判定します。歴史記録との照合を行い津波堆積物の可能性の高い堆積物を選びます。ただし、古い津波堆積物では、堆積後に変質している場合があるので注意が必要です。

 北海道の浦幌町では5,000年に10回の津波堆積物がありました。最新の時代は400年前です。津波発生当時の海岸線の位置も問題になります。海岸から内陸へと何カ所か掘削して津波堆積物を調べることでそれぞれの津波の大きさを推定できます。巨大津波でもバリエーションがあります。

 釧路市のハザードマップは決定論的評価を行っています。最大クラスの地震・津波を想定しています。

 確率論的評価では地震活動の全体像、巨大地震のバリエーションを考慮します。色丹島には12世紀と17世紀の津波堆積物があります。

 千島海溝で発生した17世紀の巨大津波は、10mを超える高さです。同じような巨大津波が繰り返し起きています。これに対して、東北沖などの日本海溝の17世紀巨大地震津波は、1611年に起きた慶長三陸地震津波のみです。勇払平野でも17世紀の1回だけ巨大津波が検出されています。

 巨大地震が発生すると地殻変動が行きます。大樹町の当縁川(とうべり・がわ)湿原での調査では、淡水環境と汽水環境を判別することにより、巨大地震による隆起とその後の余効変動による沈降を検出できました。200年前に離水し淡水環境になっていることが分かりました。

 

高井伸雄氏:千島海溝沿いの巨大地震による強震動災害

 2022316日に福島県沖の地震が発生しました。マグニチュードは7.4(気象庁、20223170430分 震源要素更新)で震源の深さは57kmでした。スラブ内地震と言われています。太平洋側で震度が大きく、また平野部で大きい震動が発生しました。

 強震動災害は、震源特性、伝播経路特性、地盤増幅特性の三つの要素に左右されます。

 北海道で強震動が発生しやすいのは、勇払平野から石狩平野にかけてやサロベツ原野など新しい地層が厚く堆積している地域です。

 建物の揺れは、建物が持っている周期によって異なります。2003年の十勝沖地震では、10秒の周期が卓越していたため、地表近くに新しい地層が厚く堆積している地域で大きな揺れになりました。

 2011年の東日本大地震では3,000秒という長い時間、揺れを観測しました。直後にあったマグニチュード7.5クラスの地震では0.20.3秒の周期が卓越していました。長周期地震動は、表面波が発生して遠くまで影響が及びます。東北本大地震では大阪府の咲洲庁舎(52階)が大きな揺れに見舞われました。超高層の上層階は大きな揺れが発生します。

 札幌の場合、冬に発生する地震では雪の重みで建物の震動の仕方が異なってきます。札幌市の区ごとの地震防災マップが20223月に配られました。このような資料に目を通しておくのが大事です。建物の点検、家具類の固定、建物周辺の状況、避難経路と方法などを普段から考えておくことが必要です。

 

橋本雄一氏:千島海溝沿い巨大地震による津波避難を科学する

 人間社会と空間の科学を研究しています。具体的には、GISで防災研究を行っています。

 空間データと属性データを使って分析・検索・表示を行います。

 19951月の阪神淡路大震災では、役所は紙媒体でデータを持っていました。しかし、庁舎が崩壊してこれらのデータは使えませんでした。2007年に地理空間情報活用推進基本法ができて20223月には第4期の基本計画が公表されました。GISや衛星測位システムが様々な分野で実用化されてきています。

 災害研究はマクロスケール、メソスケールの後はミクロスケールの科学となり人文社会科学の分野になります。

 20217月に公表された北海道の津波浸水想定図では、新しい住宅が増えている苫小牧市の沼ノ端地域は浸水地域に入ってしまいます。釧路市でも市街地の大半が浸水地域になります。

 学生たちにGPSを付けて津波避難ビルへの避難訓練をしてもらいました。結果は、津波にのまれてしまいました。原因は、1)大勢で避難すると追い越すことができないので歩行速度が遅くなる、2)避難ビルの5階まで全員が上がるのに85分かかることです。1)については分散避難が必要ですし、2)については十分な余裕を持って避難することが必要です。

 冬の夜を想定してヴァーチャルリアリティ空間で避難をしてもらいました。

 マクロからミクロへの観点を持つ、社会的脆弱性を洗い出す、災害文化の醸成などが重要です。2022年度から高校の総合地理が必修となります。そこでは、GISと防災を学びます。これへの期待は大きいです。

 

<感 想>

 千島海溝の巨大地震津波は、統計上は南海トラフ地震津波より切迫しています。いつ起きてもおかしくない状況です。

 西村氏が述べた巨大地震時に地殻が隆起しその後沈降するが、地震が切迫していると隆起に転じるという大樹町当縁川湿原での事例は、非常に興味深いものです。

 ヴァーチャルリアリティを使っての避難訓練を行い、問題点を洗い出すという橋本氏の講演も示唆に富んでいます。津波が発生した時の避難で、どこに見落としがあるのかを示してくれるという点で、活用が進んでいくことが望まれます。


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