日高山脈の自然銅 ― 2018/06/09 12:02
日高山脈博物館の秘蔵品の一つに自然銅があります.人工物でないかどうかの鑑定は東北大学の北風 嵐氏が行い,自然銅であることがはっきりしています.
( http://www.hk-curators.jp/archives/1784 )
ずいぶん昔のことですが,日高山脈博物館で最初にこの自然銅の塊を見た時は,あまりに見事な銅の塊なので人工物ではないかと疑っていました.
2018年6月5日に,新ひだか町静内のペラリ山に登ってきました.5万分の1地質図幅「農屋」を見るとペラリ山の南西に Cu と Crと書かれています.蛇紋岩地域なのでクロム鉄鉱の鉱床があるのは分かりますが,銅鉱床があるというのは,どういうことかと疑問に思いました.
調べてみると,小林治夫「北海道日高國静内鑛山產自然銅の反射顯微鏡的研究」という論文が出ていました.
ペラリ山の東,捫別川の最上流に静内鑛山がありました.ここでは,クロム鉄鉱を採掘していましたが,その一部に「銅の澤」があり,自然銅の大きな塊が大量に発見されたそうです.最大のものは200kg 以上だったそうです.
5万分の1地質図幅説明書「農屋」では,200トンの銅の塊があったと記されていますが,これはちょっとあり得ない話です.銅の密度は8.98g/cm3ですから,200トンの塊となると球形としても直径3.5m の大きさになります.
200kg とすると直径35cmの球で収まります.これはあり得る話です.日高山脈博物館の自然銅の塊は,これよりは小さいようですが,昭和15(1930)年当時,10kg 程度以下の銅の塊(球形とすると直径15cm 程度) は続々と発見されていたそうです.
小林は,自然銅の生成過程を次のように推定しています.
1)蛇紋岩中には,まずクロム鉄鉱(FeCr2O4)が生成された.
2)その後,熱水の作用によって黄銅鉱(CuFeS2)脈が蛇紋岩の裂かに沈殿した.
3)さらに,熱水の作用により黄銅鉱から輝銅鉱(CuS2)・斑銅鉱(Cu5FeS4)固溶体が形成され,同時に磁鉄鉱が晶出した.
4)すでに出来ていた輝銅鉱が酸化されて自然銅が生成された.
つまり,熱水性鉱床として形成された輝銅鉱・斑銅鉱が酸化されて自然銅が形成されたとしています.
一般に,自然銅は色々な銅鉱床の二次酸化帯で産出し,表面は酸化によって赤銅鉱(せきどうこう:Cu2O)に覆われているそうです.
銅の鉱石は,主に熱水性鉱床に産出します.
マグマ活動では,銅は珪酸塩鉱物に嫌われてマグマの冷却の時に残液に濃集し,マグマ固結の最終段階でマグマから放出される熱水中へ移っていきます.この熱水によって形成されるのが熱水性鉱床です.
熱水性銅鉱床には,鉱脈鉱床,海底熱水鉱床,スカルン鉱床,斑岩銅鉱床があります.海底熱水鉱床は,キースラーガーと言われた含銅硫化鉄鉱床や黒鉱があります.斑岩銅鉱床の銅の起源はマントルであると考えられています.
熱水性鉱床のほかに銅を産出する鉱床としては,硫化物マグマ鉱床,カーボナタイトに伴う鉱床,ミシガンの自然銅鉱床,ヨーロッパの含銅頁岩,ザンビアとコンゴの国境付近にあるカッパーベルトの銅鉱床などがあります.
参考にした図書など
☆東 豊土,博物館秘蔵品の「価値」は いかようか? ~日高山脈博物館の「自然銅」~【コラムリレー第7回】
( http://www.hk-curators.jp/archives/1784 )
*自然銅の塊の写真が載っています.
☆小林治夫,1942,北海道日高國靜内鑛山產自然銅の反射顯微鏡的研究.地質學雑誌,第49巻(第589号),376-389.
*J-STAGE で見ることが出来ます.
☆島崎英彦,2016,鉱石の生い立ち.明文書房.
☆島崎英彦のホームページ>2)日々雑感 心に浮かぶこと
( http://www1.odn.ne.jp/~caw40120/comment.htm )
☆松下勝秀・鈴木 守,1962,5万分の1地質図幅及び説明書「農屋」.北海道開発庁.
*地質図Naviで5万分の1地質図幅を表示し,凡例の上にある「図幅説明書」で説明書を見ることが出来ます.