本の紹介:オマーンを知るための55章2018/04/02 11:23

オマーンを知るための55章

 松尾昌樹 編著、オマーンを知るための55章。明石書店、2018年2月。


オマーンの自然、歴史、政治・経済、宗教などについて書かれた本です。本の名のとおり55の章からなっています。それぞれの章は、4~5頁で読みやすく工夫されています。


オマーンといえば沙漠の国という印象を持っていましたが、インド洋に面したドファール地方はモンスーン地帯で緑にあふれています。


新潟大学名誉教授の宮下純夫氏が、「第11章 オマーンの大地に刻まれた10億年の変動」と「第12章 世界最大のオフィオライト」を執筆しています。

オマーンオフィオライトが何故注目されるのかが良く理解できます。また、オマーンのオアシスは、マントルかんらん岩と海洋地殻の最下底の層状斑れい岩の境界から湧き出る地下水がある場所に見られるというのは興味深いです。ある意味、プレート境界よりも大規模な不連続面と言えます。


そのほか、湾岸諸国の中でも独特の発展をたどったオマーンの歴史とそれに伴う部族の文化、アフリカ東海岸のザンジバル島に進出していた歴史など、知らなかったことが沢山書かれています。


明石書店では「エリア・スタディーズ」として、この本を含めて163冊を刊行しています。

( http://www.akashi.co.jp )



東日本大震災から7年2018/04/02 17:24

東日本大震災から丸々7年が過ぎました。この震災で、日本が大きく変わってもおかしくなかったと思いますが、ほとんど変わっていません。


津波による死者と行方不明者と言う大きな犠牲がありました。原発事故により故郷を失った多くの人がいます。


原発事故当時、札幌でどの程度の影響があるか測ってみようと思いましたが、測定器は高く容易に手に入りませんでした。

2014年4月に郡山のひさき設計株式会社が作っている簡易放射線モニター「はかるっち2」を買い、測定を始めました。この測定器は、時間放射線量と累積放射線量を測ることができます。


2014年5月25日に測定を始めてから2017年4月5日までは1.5μSv/dayでした。4月10日から7月8日までは6.0μSv/dayに跳ね上がります。そして、2017年7月8日から2018年4月2日までは2.5μSv/dayと、2017年4月10日以前より高い値で推移しています。


これからも、測定を続けていこうと考えています。


今、S.アレクシェービッチの「チェルノブイリの祈り 未来の物語」(岩波現代文庫、2011年6月))を読んでいます。休み休みでないと読み続けることが出来ません。



          
累積放射線量
           図 累積放射線量と時間放射線量のグラフ

                表 累積放射線量の変化
累積放射線量表



藤井敏嗣氏講演 火山噴火:基礎科学と社会的役割2018/04/11 22:29

藤井敏嗣(ふじい・としつぐ)東京大学名誉教授の講演会がありました.

防災地質工業株式会社の設立50周年記念の特別講演です.防災地質工業では毎年,技術研修会を開いていて,その特別講演に外部から人を招いています.さらに,参加者を社内にとどめず,発注者や同業者に特別講演への参加を呼びかけています.


藤井敏嗣氏

写真1 講演する藤井敏嗣氏


藤井氏の大学時代は,1960年代後半でプレートテクトニクスについての論争が行われていた時代です.島弧でのマグマ発生の機構は,はっきりと解明されていませんでした.

日本の玄武岩の Mg/(Mg+Fe)比が,ほとんど0.65以下でマントルと共存できる組成を下回っています.このことから日本の玄武岩マグマはマントルの融解で出来た本源マグマの組成を代表していないと考えました.それで中央海嶺玄武岩の成因の研究を始めました.


中央海嶺玄武岩の成因については,下のような課題がありました.

1)マントル物質の融解で出来た初生マグマか

2)どの深さで生成されたか

3)中央海嶺玄武岩マグマが出来て,その後に残った融け残りマントルはレルゾライトかハルツバージャイトか

4)マグマの結晶分化は低圧か高圧か

5)マグマ生成に二酸化炭素の関与は


1960年代末から1990年直前まで,中央海嶺玄武岩成因論争が行われました.玄武岩マグマが,どの圧力でどのような密度を持つかを調べました.この結果などを使って論争相手であったE.ストルパーたちは,200kmより深いところで出来たマグマは周辺よりも密度が大きくなり,沈んでしまうと言う結論を導きました.つまり,火山のマグマは200kmより浅いところでつくられたと言うことです.


次に火山噴火の話です.

日本には111の活火山があります.活火山というのは,最近1万年以内に噴火したか現在も活発な噴気活動をしている火山です.

日本列島の火山は,水を含んだ鉱物を持ったプレートが沈み込み,深さ100km付近で温度が1,200~1,400℃となり,水が分離して上部マントル中にはき出されマントルの融解温度を下げるために形成されたマグマが元になっています.

このマグマはマントルと地殻の境界付近で一度停留して分化します.それから地殻上部のマグマ溜りへと上昇していきます.地殻中でも何カ所かで停留しマグマ溜りをつくりながら上昇していきます.最終的には深度10km付近のマグマ溜りから上昇して火山噴火を起こします.マグマの発生から噴火までは数千年~1万年ほどかかります.


火山の噴火には水蒸気噴火とマグマ噴火があります.


☆水蒸気噴火

 ・地下数百m~1km程度にある350℃以下の熱水が,突然不安定化して起こる.

 ・ほぼ前兆現象はない.

 ・液体である熱水から急激に水蒸気化して体積膨張し,水蒸気爆発を起こす.

 ・火道周辺の岩石を破壊して飛散させる.

 ☆マグマ噴火

 ・地下数km~10km程度にある1,000℃以下のマグマが地下の浅いところに移動する.

 ・上昇過程で地震や山体崩壊を起こす.

 ・マグマ中の水が圧力減少によって水蒸気化してマグマ爆発が起こる.

 ・マグマ自体を破壊,飛散させる.


 草津白根・本白根火山(もと・しらねさんかざん)が2018年1月23日に噴火しました.水蒸気噴火と考えられます.この火山は,約1,500年前までマグマ噴火をしていました.それ以来の噴火で前兆現象はありませんでした.


 2013年11月に始まった西之島の噴火は,2年以上にわたってマグマ噴火が続きました.噴出量は最大4億トンと見積もられていて,2003年の有珠山噴火以降の国内の火山活動では桁外れの規模です.


 九州の新燃岳は,地下に大量のマグマがあると考えられています.


 富士山は,864年から866年にかけて貞観の噴火が起き,青木ヶ原溶岩が流出しました.最近3,200年間で平均的には30年に1回の頻度で噴火していますが,1707年の宝永の噴火以来300年間噴火していません.

 宝永の噴火では噴煙の高さが10kmに達する噴火が2週間続きました.この時の降下物は西風に流されて羽田空港付近で8cm以上,横浜駅周辺で16cm以上の厚さで積もりました.神奈川県の酒勾川中流域では30cm以上の火砕物が積もり河川復旧に70年ほどかかりました.

 次の富士山の噴火がどこで起こるかは分かりません.山頂を中心に北西-南東方向の場所で起こる可能性が高いと考えられています.しかし,北北東の山麓にある雁ノ穴(がんのあな)火口で5~7世紀に溶岩(雁ノ穴丸尾溶岩)が噴出したことが最近分かりました.この火口は,富士急河口湖線の富士山駅(富士吉田市)の南約4kmの場所です.


 火山監視と噴火警報の話です.

 火山監視・噴火予知の責任機関は気象庁です.ただし,気象庁には火山の専門家はいません.アメリカはセントヘレンズの噴火以後,体制を整え300人以上の人員で対応しています.

 火山噴火予知連絡会がありますが,これは気象庁長官の私的諮問機関で権限も人員も持っていません.

 有珠山の岡田・宇井,雲仙の太田・桜島観測班など大学の観測所が対応した場合もあります.しかし,現在大学の観測所は5つのみで機器の老朽化が進んでいるほか,2004年以降は論文数で評価されるようになり,継続が難しくなっています.

 

 短期的予知は地震動と山体膨張の観測で対応しています.

 桜島は山体の変動のみを見ていれば予知できるという性質の火山です.

 2014年9月の御嶽山の噴火は水蒸気噴火で,傾斜計に明確な前兆現象が現れたのは11分前でした.

 一般的に,前兆現象が現れるのは,せいぜい数日前です.中長期予測は誤差が大きくなります.例えば,1977年~78年にかけて有珠山が噴火しました.1663年以降の噴火間隔から,次回噴火は早くて2008年頃と予想していました.しかし,2000年3月末に噴火しました.


 原子力発電所とカルデラ噴火の関係について,2018年3月に出された原子力規制庁の「火山影響評価ガイド」では「将来の活動可能性が否定できない火山」については「設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいか?」を判断することになっています.

 日本のカルデラ噴火は12万年間に18回起きています.単純に計算すると6,700年に1回の割合です.最も新しいカルデラ噴火は7,300年前の鬼界カルデラです.


 日本では毎年3~8火山が噴火しています.対応としては人員を増やすこと,世界の火山噴火を見て事例を増やすことが必要です.

 アメリカでは噴火観測の即応体制が整っていて,噴火が発生したら軍の支援で観測パックを積んですぐに出かけられるようになっています.



雨宮和夫氏

写真2 挨拶する雨宮和夫・防災地質工業株式会社・社長


 藤井氏の講演に先立ち,雨宮氏が挨拶しました.藤井氏との個人的な関係も披露しながらの聞かせる内容でした.



本の紹介:官僚たちのアベノミクス2018/04/13 10:38

官僚たちのアベノミクス

軽部謙介,官僚たちのアベノミクス-異形の経済政策はいかに作られたか.岩波新書,2018年2月.


時事通信解説委員による第二次安倍政権成立前後の話です.

登場するのは,政治家,財務省や経済産業省の官僚,大学教授,日銀審議委員などです.


2012年12月16日に自民党が衆議院選挙で圧勝し,アベノミクスが形成されるまでの顛末が事細かに述べられています.

この本によれば,2007年の第一次安倍内閣を放り出した後,安倍晋三氏は経済についてかなり勉強しました.いろいろな人の話を聞いて,的確な質問をしていました.その成果が,1)大胆な金融政策,2)機動的な財政政策,3)民間投資を喚起する成長戦略,というアベノミクスに集大成されました.


大胆な金融政策をめぐっては,日銀と政府とのせめぎ合いの様子も詳しく書かれています.年金基金の株式運用比率の変更では金融庁・内閣府と厚生労働省との激しい駆け引きが行われました.


官房副長官の杉田和弘氏(警察官僚出身),厚労相の加藤勝信氏(財務省出身)などの活躍も記されています.


政権が移行する情勢になった時の官僚たちの対応が詳しく述べられていて興味深いです.


今現在の情勢を理解する上での参考になります.



大分県中津市の深層崩壊2018/04/13 21:30

場所:

・大分県中津市耶馬溪町(やばけいまち)大字金吉(かなよし).

・山国川合流点の南2.8km,金吉川左岸.

・県道平原耶馬溪線の飛瀬(とびせ)バス停留所の川を挟んで向かい.

・地理院地図では,「梶ヶ原」と表記されている集落背後の斜面.

 (北緯32度24分26秒,東経131度05分50秒)

時間:

・2018年4月11日午前3時40分頃

地形:

・金吉川が南から北へ流れ,山国川の合流する手前の左岸斜面である.金吉川は崩壊箇所のやや北(下流)で大きく直角に曲がっている.

・背後の斜面の平均勾配は42度で,一部露岩している.

・斜面背後の丘陵は標高350mほどで,なだらかな地形が広がっている.

地質:

・急崖を形成しているのは中新世後期から鮮新世の火砕岩類である.

・背後のなだらかな地形は更新世前期の耶馬溪火砕流堆積物で,噴出年代は約100万年前である.

崩壊原因:

・今回の崩壊前の降水量は次のようであった.直前に雨は降っておらず,乾いた斜面で発生した崩壊であった.


2018年4月6日

4.5mm

7日

1.5mm

8日~10日

0.0mm


・現地を見た専門家は,風化して強度が低くなっていた岩石が,崩れたのだろうと推定している(朝日新聞2018年4月12日朝刊).

・国土交通省九州地方整備局が公開している上空からの斜め写真を見ると,崩壊跡にパイピングのような水の湧き出しが見える.特に,下に示したウェブサイトの後者のドローン調査映像で良く分かる.

(https://www.youtube.com/watch?v=oX9QEV14Pl4 および

https://www.youtube.com/watch?v=H7jLSG_HlG4,2018年4月11日公開)

・ドローンの写真を見ると崩壊斜面に向かって左(南)に古い崩壊跡と思われる植生の変化が見られる.

・地理院地図で見ると,今回の崩壊地の右(北)にも,幅約130m,水平距離での奥行き約390mの地すべり様地形が認められる.地理院地図の「梶ヶ原」の文字のすぐ北側の地形である.

・数日前に「普段にはない山水が出ていた」という情報がある(大分合同新聞,2018年4月11日12時07分).

・崩壊原因については,今後の調査が待たれる.


参考にした資料

・国土交通省九州地方整備局,九州地方整備局防災ヘリ「はるかぜ」による 大分県中津市の土砂崩落現場の調査映像.2018年4月11日公開.

https://www.youtube.com/watch?v=oX9QEV14Pl4

・国土交通省九州地方整備局,九州地方整備局TEC-FORCEによる大分県中津市の土砂崩落現場の ドローン調査映像.2018年4月11日公開.

https://www.youtube.com/watch?v=H7jLSG_HlG4

・壇原 徹・鎌田浩毅・岩野英樹,1997,中部九州耶馬溪火砕流堆積物と大阪層群ピンク火山灰のジルコンのフィッション・トラック年代.地質学雑誌,第103巻,第10号,994-997.

・日経XTECH,乾いた斜面がなぜ崩壊? 大分県中津市.2018年4月13日.

( http://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00142/00098/?P=1 )