北海道らしい 無電柱化を考える2017/10/20 21:48

北海道らしい 無電柱化を考える 
風土と景観を活かしたまちづくりのために

 2017年10月19日(木)午後2時から5時半まで,札幌市の「かでる2・7」のホールで,表記シンポジウムが開かれました。会場が,ほぼ一杯になる400人近くが参加しました。
 以下,主な講演の概要を述べます。

<神田大朗氏(北海道開発局建設部 道路維持課 課長補佐)>
「無電柱化の現状とこれから〜北海道における無電柱化の推進に向けて〜」


神田開発局道路維持課長補佐
写真1 神田課長補佐

 北海道における無電柱化の必要性は次のようにまとめられます。
1)道路の防災性の向上:台風などの強風,大雪,地震で電柱が倒れ,送電が止まってしまうような事態を避けることができます。
2)安全で快適な通行空間の確保:電柱が歩道を塞いでいることがあったり,大雪の時の除雪で電柱が邪魔になったりと言うことがなくなります。
3)良好な景観形成による観光振興:電柱がなくなることによって街の景観が改善されたり,道路からの眺めが良くなります。

 全国的に見ると無電柱化は東京が約5%,兵庫,岐阜,大阪が約2.5%であるのに対して北海道は約1%です。ロンドン,パリ,香港は無電柱化100%です。
 北海道の国道は約6,600kmで,そのうち無電柱化延長は約50kmです。

 北海道における無電柱化の課題は,
1)凍結深より深く管路を埋設する必要があります。ただし,光ケーブルは凍結してもそれほど劣化しないという結果が出ています。(山下氏の講演)
2)無電柱化の費用が高くなり,施工に時間がかかります。これについては,専用のアタッチメントなどの開発が進んでいます。(同上)

 無電柱化の整備手法は色々あります。
1)地下への埋設:根本的な方法です。美瑛町では,区間を切って地中化をした場所があります。(浜田美瑛町長の講演)
2)裏配線:眺めを邪魔している電線を道路の反対側に移すことで改善できる場合があります。例としては,国道276号の倶知安町八幡ビューポイントでは,羊蹄山の眺めの手前にあった電柱を反対側に移設しました。

 そのほか,コストの問題,関係者間での事業調整の難しさ,職員の能力の問題などがあります。
 既設施設を電線共同溝として利用する,管路整備に関する民間の技術などを活用するといった整備手法があります。

 コスト低減の手法としては,1)管路を浅いところに埋設する,2)小型のボックス内に電力ケーブルと通信ケーブルを一緒に埋設する,3)ケーブルを埋設管を使わないで直接埋設する,などの手法が検討されています。

<石田東生氏(日本みち研究所 理事長)>
「無電柱化と道路製作のイノベーション」

石田理事長
写真2 石田理事長

 平成29年8月22日に社会資本整備審議会・道路分科会で建議『道路・交通イノベーション〜「みち」の機能向上・利活用の追求による豊かな暮らしの実現へ〜』を決定しました。石田氏は分科会長を務めました。その中の資料の一つに,「無電柱化の取り組みについて」というものがあります。
( http://www.mlit.go.jp/common/001202621.pdf )
 そこでは,道路・交通から社会経済を変革することを目指していて,その一つが無電柱化です。

 イノベーションというは,技術革新という狭い意味ではなく「経済・社会システムを改革」することです。J. シュムペーターが,1911年に『経済発展の理論』の中で提唱した「新結合」が初出です。
 この社会資本という概念は,社会基盤の整備ということだけでなく,自然環境,道路などの社会的インフラストラクチャー,教育や医療・金融・司法などの制度資本を含むものと拡大されてきました(*例えば,宇沢弘文,社会的共通資本.岩波新書)。

 2016年3月に閣議決定された「北海道総合開発計画」では,食と観光を担う生産空間をつくることを謳っています。そのためには,北海道だけの感動を与える風景をつくり出すことが必要です。
 2003年から始まったシーニックバイウェイ(景色の良い脇道)では,道路周辺の景観を整える試みも行われています。例えば,国道276号・倶知安町八幡駐車場(ビューポイント・パーキング)では,電柱を移設して羊蹄山の眺めを確保しています。
( http://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/dou_kei/ud49g7000000tflt.html )

*シーニックバイウェイとは「主に自動車の走行する道路からの視点で、景観、自然、文化、レクリェーションといった要素によって観光や地域活性化などを目的として、地域の魅力を具現化するための取り組み、またはそのためのルートのこと。」(ウィキペディア,最終更新 2016年10月4日 (火) 11:55)

<その他の講演>
 山下彰司氏(寒地土木研究所):北海道から見た無電柱化に必要な技術開発〜自然・田園地域及び寒冷地における方策〜
 浜田 哲氏(美瑛町長):まちづくりと景観育成
 室谷元男氏(江差町歴まち商店街協同組合監事):歴史資源を生かした交流の町づくり 無電柱化のいにしえ街道
 奥村敦史氏(北海道電力 流通本部 配電部長):無電柱化の取り組み


石田理事長
写真3 パネルディスカッションのメンバー
 左から石田日本みち研究所理事長,浜田美瑛町長,室谷歴まち商店街協同組合監事,奥村北電配電部長です。

<パネルディスカッション>
 佐々木 葉氏(早稲田大学創造理工学部教授)の司会で行われました。これについては省略します。

*1週間くらいでも外国,例えばイギリスに行って帰ってくると,高圧送電鉄塔が異様に見えます。
 このシンポジウムでも電柱のない街の風景が紹介されていましたが,街の中に電線と電柱がある光景は,うっとうしいと感じます。それは,景観と言うことだけでなく,街の中の安全を確保するという点でも大事だと思います。
 それと,北海道の場合,広い低地が多いので高圧送電線を何とかして欲しいとも思います。例えば,札幌の北にある当別町辺りから西を眺めると,平野の向こうに手稲山などの高さの揃った山々が見えます。しかし,送電線の鉄塔が並んでいるので写真を撮るのに良い場所がありません。鉄塔も景色の一部と割り切れば良いのでしょうが。