本の紹介:教科化された道徳への向き合い方2017/10/11 15:47


教科化された道徳への向き合い方
碓井敏正,教科化された道徳への向き合い方.2017年9月,かもがわ出版.

 著者が,この本を著したのは,
 「子どもの自由な成長に対する願いと,「教育勅語」の使用を認めることに象徴される,現在の保守政権の歴史逆行的な教育政策に対する危機感であり,さらにそれをより高い立場で乗り越えようとする,実践的問題意識である。」(本書「はじめに」より)。

 哲学や倫理学を専門とする大学教師の道夫と小学校のPTAの役員を経験したことのある妻の徳子との対話形式で話が進みます。

 道徳科の教科化は対症療法で,受験中心の競争教育,画一的な生徒管理,権利意識の希薄な学校文化,といった学校教育のゆがみを直す原因療法を取らないと,学校が今抱えている問題の解決から,かえって遠ざかってしまいます。
 学校を,横の関係が軸になる自治的組織として再生させることが先決です。

 道徳教育には現代的可能性があります。
 道徳的規範には普遍的性格があるので,これを理解しておくことが必要です。人間や社会の本質に規定されて歴史を越えた普遍的な規範があります。自然に対する配慮,労働に関わる勤勉さ,人との協力の必要性などです。
 このような普遍的規範を子供たちに伝えていくために道徳教育に取り組むことが必要です。

 個人の自由と自立によってなり立つ近代社会の基本概念である人権についての教育と道徳教育との関係の理解が大事です。
 つまり,他者の権利を常に念頭に置いたかたちで,道徳教育を行うことが必要です。例えば,一人一人はみんな違っていて,それが尊重されるというのは人権教育の柱です。このことが定着すれば,いじめを生む画一的な学校文化を変えていくことになります。

 人間には,積極的に問題解決に取り組む主体性を持てないという根源的弱さがあることを認める必要があります。そういう弱さを持っているのは人間だからだという自己肯定感を持たせることが大事です。

 道徳科が教科となることで,評価をどうするかが大きな問題となります。間違った評価をした場合,道徳科は人格そのものに関わるので,子どもの心を傷つけます。

 道徳教育で大事なことは,子どもと先生,子どもと親,子どもと地域社会といった相互の信頼関係を作り出すことです。

 *2018年度から「特別の教科 道徳」(道徳科)が始まります。さらに,道徳教育の全面的改定は2020年度からの次期学習指導要領で順次始まります。これにどう取り組むかという実践的な内容と同時に,道徳とは何かという根本的な問題も検討した良書だと思います。


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