i石狩海岸周辺の風車事業2017/05/17 20:56

シンポジウム
石狩海岸周辺の大規模風力発電事業計画の危険性

 世の中には知らないことが沢山あることを痛感したシンポジウムでした。
 低周波音による健康障害は「気のせい」ではなく、人の内耳の仕組みによるものだと言うことでした。

 2017年5月13日,午後1時半から午後5時まで,北海学園大学で開かれたシンポジウムです。ここでは,北大工学研究院教授の松井利仁氏(大気環境保全工学)の講演内容を紹介します。

 なお,北海道自然保護協会の活動については,( http://nc-hokkaido.or.jp )をご覧下さい。
 また,石狩の風力発電を考える会のホームページは,
( https://blogs.yahoo.co.jp/isokomorigumo )です。


松井利仁氏
写真1 講演する松井利仁北大大学院工学研究院教授
 松井教授は,米軍嘉手納基地の騒音による死者は年4人という推計を出しています。裁判の原告側証人を数多く引く受けましたが,全敗だと言っていました。
( 参考:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/24298 )

松井利仁氏「風車騒音による健康影響と石狩湾新港周辺の3事業の影響評価」
 札幌では騒音で多くの人が亡くなっています。大気中の有害現象で最も死者が多いのは,PM2.5を含む微少粒状物質によるものです。交通騒音での死者は,受動喫煙などと同じ程度で,ベンゼンやダイオキシンなどの化学物質による死者に比べ多くなっています。
 札幌市での交通騒音など環境騒音による死者の推計値は,約21人╱年です。

 低周波音とは何か。
 環境省では周波数が100Hz以下の音を低周波音としています。その中で20Hz以下の音を超低周波音と言います。
 低周波音は,高架橋の揺れによって発生したり,エコキュート(ヒートポンプ式の給湯器)から発生したりします。風力発電の風車も低周波音を出します。
 低周波音の大きな特徴は,減衰しにくいことです。例えば,4,000Hzの音は2km程度で−70dBくらいになりますが,100Hzくらいの低周波音は−30dB程度にしかなりません。
 低周波音は室内にも侵入してきます。部屋の中では分布が不規則で,壁の近くで共鳴した音のレベルが高くなります。縦方向でも床や天井でレベルが高くなります。

 低周波音が健康に及ぼす影響は様々です。1977年の西名阪自動車道の事件で,低周波音が健康に影響を及ぼすことは明らかにされていました。症状は,頭痛,肩こり,めまいのほか,睡眠障害(不眠),イライラなどです。これは,発電風車による健康影響と全く同じです。

 音は,内耳にある前庭を通して蝸牛に届きます。耳は,40Hzくらいの低周波音に敏感で,めまいなどの平衡機能が障害を受けます。低周波音の特徴は,小さな音でも蝸牛に影響し,気になって眠れないという状況を起こします。この「気になる」というのは騒音計では測定が難しいのです。
 蝸牛の前にある前庭への低周波音の刺激では,圧迫感や振動感で眠れなくなります。風車病の特徴である,めまい,頭痛,肩こりが出ます。これは,「気になる」と言うことではなく,低周波音の物理的刺激によって起こるものです。


風車騒音と健康障害
風車騒音と風車病・睡眠障害の因果関係(松井,当日配付資料による)

 日本では,2004年に環境省が「低周波音問題対応の手引書」を出していて,その中で低周波音による物的苦情に関する参照値,心身に関わる苦情に関する参照値というのを示しています(表1)。
 ここで注意しなければならないのは次の点です。
(1)環境省の参照値は,10人に1人が寝室で「気になる」レベルです。
 *苦情者における許容レベルの周波数特性は、全体として一般成人における寝室の許容レベルの 10 パーセンタイル値に近い傾向を示した。(手引,26p)
(2)参照値を下回れば苦情が無くなるわけではないです。1%の人が「気になる」音は,参照値より約10dB低いという結果が出ています。
(3)参照値は対策などの目標値ではありません。しかし,低周波音発生源の事業者は,この参照値よりも緩い環境基準値などを比較対象としています。
(4)室外機など定常的・連続的な低周波音であれば参照値は適用可能ですが,風車騒音は連続的であるものの規則的な変動があり,より「気になる」音です。
(5)広帯域の低周波音は,内耳で加算され,より「気になる」のです。

表1 物理的苦情(上:建具のがたつきなど)・心身に係わる苦情(下:睡眠障害)に対して,低周波音が原因かどうかを判断するための「目安」(松井,当日配付資料による)
 *A特性音圧レベルでは,極めて低いレベルでも「気になる」。
風車騒音レベル


 現在,工事に着工していたり計画されてたりしている石狩湾岸の風力発電所について,公表されているデータをもとに評価すると次のようになります。

<石狩コミュニティウィンドファーム>
(1)圧迫感・振動感を知覚することによる睡眠障害などの健康リスクが,300人以上に発生する可能性があります。
(2)工業団地で,極めて高い健康障害の発症率が予想されます。低周波音の曝露人口1,000人に対して,32人が影響を受け,そのうち18人が就労困難になるリスクを負います。
(3)北側と南側の住宅地で100人に1人以上の健康障害発症率となります。

<銭函風力発電>
 曝露人口は87,250人で,影響人口は384人と推計されます。圧迫感・振動感を知覚することによる睡眠障害などの健康リスクです。

<石狩湾新港区域内洋上風力発電>
 曝露人口は348,876人,影響人口は1,899人という結果になります。

 風車騒音に対する日本の現状は,水俣病への対応と共通点があります。
 水俣病では,経済成長のブレーキになるとして当時の通産省は,「原因は厳密には特定できない」とし,これに多くの科学者が同調しました。1956年に公式に「発見」されたあと,1959年に熊本大学水俣病研究班が原因物質は有機水銀であると発表しました。

 風車騒音被害では,環境省が「原因は厳密に特定できていない」とし,日本騒音制御工学会を中心に科学者が被害を否定しています。

 その特徴は以下のようなものです。
(1)低周波音などによる環境性睡眠障害を「不快感」による睡眠への影響とし,心理的反応であるかのように矮小化しています。
(2)「風車病」は知見が不十分だとしています。
(3)内耳にある前庭がどのような働きをしているのかを知りません。
(4)平均値によって評価して,個人差や高感受性の人たちを考慮していません。
(5)疫学・公衆衛生,過去の公害事件を知らず,学ぼうともしていません。

 風車病を防ぐ方法は八方ふさがりのように見えます。その中で,かなり難しいですが,騒音規制法の指定地域とすることは,一つの方法と思います。これは,自治体(市)の権限でできることです。


総合討論
写真2 総合討論の様子