渡邊達也氏講演会(防災地質工業株式会社 技術研修会)2017/04/13 16:13


渡邊達也氏
                           渡邊達也氏
 渡邊氏は,北見工業大学工学部 地球環境工学科 環境防災工学コース 助教です。
 氏は,筑波大学出身で,2012年にスバルバール大学北極地質学科博士コースを終了し,帰国後,北海道立総合研究機構地質研究所に入り,その後,北見工業大学に移りました。

 2017年4月10日(月)にセンチュリーローヤルホテルで「凍結融解による斜面プロセスと周氷河堆積物」と題する北見工業大学の渡邊達也氏の講演会が行われました。この講演会は,防災地質工業株式会社の技術研修会の特別講演として行われたものです。

 周氷河環境というのは,地表面が凍結融解を繰り返す環境のことで,生態学的には森林限界,気候学的には年平均気温が3℃で,季節凍土や永久凍土が分布していて周氷河地形が発達している環境です。現在は,北極圏,ヨーロッパアルプス,チベット高原やアンデス山脈,南インド洋のケルゲレン諸島(フランス領南方・南極地域:49S, 69E)などで周氷河環境となっています。

 現在の日本列島の周氷河環境の限界は,南アルプスより北の高い山で,北海道でも日高山脈や大雪山,利尻岳などで見ることができる程度です。これに対して最終氷期最盛期(約2万1千年前)には,北海道では低地でも周氷河環境にあったと考えられます。

 凍上現象というのは,土の中の水が凍結して地表面を持ち上げる現象です。地表付近の水が凍ると霜柱ができます。やや深いところで土の中の水が凍るとアイスレンズができ,地表面が持ち上げられます。このような凍結と融解を繰り返すのが凍結融解作用です。この作用によって斜面上の土砂の移動が起こります。

 凍結融解作用は大きく二つに分けられます。日周期型と年周期型です。
 日周期型は,夜に気温が低下して地表面付近の土の中の水が凍り,昼になると融けてしまいます。
 年周期型は季節凍土帯と永久凍土帯に分けられます。
 季節凍土帯では,冬になると地表から数m程度までが凍土層(季節凍土層)になり,夏になると融けてしまいます。
 永久凍土帯では,夏でも永久凍土層が地下に残り,その上に活動層(季節融解層)ができます。活動層の最大厚さは,土の場合数10cm〜2m,岩屑の場合2〜4m,岩盤の場合5〜8mです。

 永久凍土帯では永久凍土層と活動層の間に遷移層が出来ます。下にある永久凍土の方が温度が低いために下から冷却してきます。すると,永久凍土層の中にアイスウェッジが形成され上方に成長していきます。

 スピッツベルゲン島の沖積扇状地での凍結融解作用では,扇状地の上方の土質は粘土質シルトであるのに対し末端では細粒砂です。土質が違うために形成される構造土が違い,水分量や凍結状態にも違いが表れます。

 周氷河環境での地盤の変化としては,永久凍土層の融解によって生じる地盤沈下(サーモカルスト)や活動層の崩壊があります。

 周氷河環境での斜面変動は,その地域を構成する地質の相違が現れます。例えば,石灰質結晶片岩地域では永久凍土層のクリープによる岩石氷河が形成されます。頁岩地域では,岩片が細片化しソリフラクション・ロウブが形成されます。

 ソリフラクションというのは,凍結融解サイクルによるゆっくりとした斜面の土層移動のことで,周氷河環境で発生します。この土層の特徴は,1)シルト・砂を多く含む,2)液性限界・塑性指数が低い土層で起こりやすいということです。
 ソリフラクションには二つの土砂移動形態があります。
 一つはフロストクリープで,凍結によって斜面に垂直に持ち上げられた土砂が融解によって鉛直に近い角度で落ちることによって斜面下方に移動する形態です。
 もう一つはジェリフラクションで,融解した土層が斜面下方にクリープすることによって発生します。

 細粒岩屑斜面では,ソリフラクションのほかに凍結面の上面をすべり層としたスライド・フローが発生します。斜面背後から融雪水が供給され,地表面近くの融解層に浸透し凍土層との境界をすべり面として急速に移動する形態です。

 厚い周氷河堆積物ができるには,ソリフラクションや活動層崩壊のほかに永久凍土層のクリープが関わっている可能性が指摘されています。

* 2014年8月の礼文島の豪雨による斜面崩壊,2016年8月の日勝峠付近を中心とした地域や知床半島での斜面崩壊など,山麓緩斜面堆積物の崩壊が注目されています。今回の講演は,周氷河環境での斜面プロセスについて基礎知識を含めて紹介してくれたという点で時宜にかなったものでした。
 災害業務では,復旧工事を睨んで迅速な対応が求められます。その中で,崩壊機構や原因を解明する調査を行い,まとめるのは厳しいものがあります。しかし,先入観にとらわれないで事実を積み上げていくことが必要だろうと思います。

** 日本列島の周氷河環境については,貝塚(19689)の図が最初のものだと思います。その後,この図は,<塚爽平,1998,発達史地形学(182p:東大出版会)>にも掲載されました。
 現在では,山関係の本にきれいな図が掲載されています。例えば,<小泉武栄,2007,自然を読み解く山歩き(88p:JTBパブリッシング)>などです。


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