芦別岳 ― 2010/09/10 20:59
芦別岳は夕張山地の最高峰である.その尖った山頂で遠くからでも容易に見分けることが出来る.
芦別岳の山頂およびユーフレ川〔勇振川〕源流付近に分布しているのは,ジュラ紀から白亜紀前期(約2億年前から1億年前)の玄武岩(苦鉄質火山岩類)である.この玄武岩岩体は付加体中の岩体とされている.芦別岳を含む岩体の規模は東西幅最大約2.0km,南北延長約7.5km の巨大なものである.
北尾根を構成しているのはジュラ紀中期から後期〔約1.76億年前から1.46億年前)の海成堆積物である.
極楽平から旧道の北尾根取り付き付近のなだらかな地形は,夕張岳から続く蛇紋岩を含むオフィオライト(海洋プレートの断片)の分布域である.この蛇紋岩起源の粘土が沢に堆積しており,槙柏山の西から北に広がる,なだらかな沢地形を形成したものと考えられる.
芦別岳の登山道はユーフレ川沿いに登り北尾根に出て,尾根沿いを歩く旧道コースと山部自然公園の南側の貯水池から尾根に取り付いて登る新道コースとがある.
2010年9月7日現在,旧道コースは,8月お盆過ぎの雨によると思われる崩壊が各所で発生していて非常に歩きづらい状態となっている.特に,ユーフレ小屋分岐から夫婦岩分岐までの沢(夫婦沢)は渓岸崩壊が著しい.ベトベトの蛇紋岩粘土が崩壊していたり,出来たての土石流が堆積していたりで足元が崩れやすくなっている.
登山時間に余裕を見た方がよい.
十九線道路の突き当たりの「太陽の里」パークゴルフ場の駐車場に車を置いて歩き始める.砂利道の林道をしばらく行くと登山ポストがあり,笹の生い茂る登山道に入っていく.
↑ 芦別岳の旧道登山口:ここまでは砂利道で,この先は笹の覆い被さる登山道となる.
沢に降りて最初に出てくる露頭は砂岩泥岩の互層である.前期白亜紀の海成堆積物である.ユーフレ川の水は白く濁っている.上流の蛇紋岩粘土によるものであろう.
↑ 最初の露頭:砂岩泥岩互層でやや硬質である.沢の水は白く濁っている.
登山道は沢に沿っているので次々と露頭が出てくる.塊状砂岩の優勢な部分があり,そのような箇所では沢を離れて高巻きとなる.
標高440m付近に泥岩優勢砂岩泥岩互層の大露頭がある.前期白亜紀初期の海成層である.走向・傾斜は N25° E,70°SE である.
↑ 泥岩優勢の砂岩泥岩互層
次の高巻き箇所は硬質な塊状泥岩主体の地層である.ジュラ紀中期から後期の海成堆積物である.この付近では沢に泥岩が広く分布している.
↑ 泥岩の露頭:この登山道の露頭では片理が目立つが沢の中では塊状の硬質なものである.
滝のある沢を横断し,さらに進む.この沢の左岸が泥岩と付加体中の巨大ブロックである玄武岩体の境界に当たる.
↑ 滝をつくる水量の多い沢:この付近も泥岩優勢層である.
御茶々岳,槙柏山,夫婦岩,屏風岩,芦別岳は全てこの玄武岩で構成されている.鉄梯子を登り白竜の滝を左手に見ながら夫婦沢に入っていく.
↑ 白竜の滝:北尾根にはこの滝を見ながら登っていく.
ここからが荒れ沢になる.出来たばかりの土石流,蛇紋岩粘土を含む崩壊地など障害が次々と現れる.
↑ 8月のお盆過ぎに何回か大雨が降った.その時に出来た土石流と想定される.
↑ 蛇紋岩粘土を含む崩壊地:転石の間はベトベトの淡青灰色の粘土である.登山道も崩壊により浚われているが,向かって左手をひたすら登っていく.
↑ 槙柏山の裾も水で表土が流されている.
沢筋を抜けると槙柏山,夫婦岩が間近に見えてくる.これらの山は玄武岩で構成されている.
↑ 槙柏山:頂上付近は岩盤が露出している.
↑ 夫婦岩:玄武岩で構成されている.
北尾根に出て最初のコブ(標高1279m)に露頭がある.蛇紋岩化していない超苦鉄質岩(かんらん岩)である.おそらく,登山道で超苦鉄質岩を見ることの出来る唯一の場所であろう.
↑ 超苦鉄質岩の露頭:北尾根に続く小さな尾根を形成している.
この先の急登までは蛇紋岩地帯特有のなだらかな地形が続き,途中には小さな池があったり西側斜面に蛇紋岩粘土を含む地すべり地形があったりする.
↑ 尾根の東斜面にある小さな池:このような池は蛇紋岩地域に特徴的のものである.
↑ 蛇紋岩の崩壊地:典型的なスランプ型の地すべりである.
この先の急登部から南はジュラ紀中期から後期の海成堆積物(シルト岩や緑色の凝灰質岩など)で構成されている.
↑ 北尾根に分布する遠洋性堆積物:淡緑灰色で非常に細粒である.
しばらく行くと右手に崕山(きりぎしやま)の白い崖が見えてくる.南に緩く高度を下げて恐竜の背中のように見える.この山は付加体中に取り込まれた石灰岩の巨大ブロックである.
↑ 崕山:南(左)に傾斜した白い石灰岩の尾根を見せる.恐竜の背中を思わせる山稜である.
標高1444m のコブへの急登部から 北を見ると尾根を含めてなだらかな地形が広がっている.なだらかな地形は蛇紋岩を主とする部分で,北に延びる小さな尾根は,付加体中のあまり蛇紋岩化していない超苦鉄質岩で構成されていると推定される.
↑ 最初の急登部から北を見る:蛇紋岩地帯特有のなだらかな地形が広がる.遠く右手の三角の山は富良野西岳である.
標高1444m のコブからやっと芦別岳の山頂が見えるようになる.
↑ 北尾根からの芦別岳遠望:中央の雲に頭が少し隠れている尖った三角の山が芦別岳の頂上である.標高が1400mを越えハイマツが一面に生えている.
↑ キレット手前から見る芦別岳:鞍部が玄武岩と堆積岩の境界となっている.
↑ 頭を雲に覆われた芦別岳の頂上:向かって右側に崩壊地がある.崩壊箇所からは湧水が見られ,日が当たると人工物のように白く光る.
この先はアップダウンの繰り返しでクライマックスのキレットに向かう.
しかし,キレット手前の岩峰越えが今回の登山で一番怖かった場所である.ハイマツの脇の露岩の上を乗り越えて行く.長いこと崖面点検をやってきたがこれほど怖い思いをしたには久しぶりである.しかし,これを乗り越えられないと今来た道を戻らなければならない.あの荒れた夫婦沢を降りるのもかなりしんどい.ハイマツの中を行こうかとも思ったが,この辺りのハイマツは,背は低いが葉の下には枝が絡み合っていて足を取られて進むのも容易ではない.必死の思いで岩を乗り越えた.
↑ 北尾根で一番怖かった岩峰越え:やや変質した泥岩でサイコロ状の亀裂が発達する.てっぺんのハイマツの左側の露岩の上を越え右手のハイマツの上に降りる.
↑ キレット手前で振り返る.:中央の露岩した三角のてっぺんを乗り越えた.右も左も絶壁である.
↑ キレットを過ぎるとなだらかな山容になり,山頂が目の前に見える.
↑ ユーフレ川の源頭部:大きく切れ込んでいる.その比高は300m 以上ある.
山頂へはなだらかな斜面の道をたどる.北を振り返ると槙柏山,富良野西岳,夫婦岩が見える.
頂上へはハイマツ林の中を通り,最後は岩に取り付いてよじ登る.塊状の玄武岩である.
↑ 山頂直下の玄武岩:左の草の上を登り最後は岩肌をよじ登る.初級者の岩登りと言われているが,高さがあるのでそれなりに怖い.
山頂からの眺めは素晴らしい.南にはポントナシベツ岳(南喜岳)と夕張岳が見える.残念ながら,この日は十勝岳火山群や大雪山は雲に隠れて見ることが出来なかった.
↑ 山頂から北を見る.
↑ 頂上から南を見る:中央遠くの三角の山が夕張岳で,手前の山がポントナシベツ岳(南喜岳)である.
下りは新道コースを下った.尾根道で,旧道に比べると高速道路のようである.それでも登山口まではゆうに3時間かかる.アプローチの長い山である.
途中,石や地形を見ながらとは言え,朝6時30分に旧道コース登山口を出発して,頂上に着いたのは14時30分,新道コースの登山口に戻ったのは17時30分であった.
一般的には旧道の登り7時間,新道の下り3時間,計10時間のコースとされている.
以上