月周回衛星「かぐや」が月に落下2009/06/09 17:17

 「かぐや」は09年6月11日午前3時30分頃,地球側の月表面の右下付近に落下する.衝突閃光が望遠鏡などで観測される可能性は少ないと予測されている.

 14種類の様々な観測機器を搭載した「かぐや」は,月面からの高度100kmの上空を飛びながら観測を続けてきた.09年6月3日には高度11km から撮影した映像も公開された.この高度は旅客ジェット機が飛ぶ高さに近く,地表の様子が詳細に分かる.

 「かぐや」には,月レーダサウンダーと呼ばれる地下構造を観測する機器が積まれている.これは,高度約100km の周回軌道から約5MHz のレーダー電波を送信し月の表面や地下から反射してきた電波を受信して,反射面の深さを解析によって求めるものである.その結果,見かけの深さ500m と800m 付近に反射面があることが分かった.
 実際の深さは月の岩石中を伝わる電波の速度で補正する必要がある.月の岩石はアポロが採取したサンプルがあるので,これを参考にして補正を行うことになる.
 
 なお,この月レーダサウンダーの探査深度は5km である.月では,地球のように電離層,磁気圏,人工電波の影響を受けないため広帯域・高感度の観測が可能である.

 今回観測された晴れの海の地下反射面から次のことが分かってきた.

1)月の表面にはレゴリス(regolith) と呼ばれる未固結の岩石物質層があるが,このレゴリスが地下にも存在していると推定される.つまり,約38.5億年前に玄武岩溶岩が噴出し,その後約1億年でレゴリス層が堆積し,その上を28.4億年までにもう一度玄武岩溶岩が覆ったと考えらる.
 なお,月には大気がないため1mm以下の衝突物質でもクレーターが出来て岩石物質が放出され,レゴリスの材料が生じる.約38億年前から衝突物質が減少したためレゴリスの成長率は低下し,月の海の表面上では層厚10m 以下と言われている(新版 地学事典.平凡社).

2)月の海は地球から見ると暗い部分で,巨大クレーターの跡に玄武岩が噴出して大平原が形成された.この大平原に,幅の狭いリッジと呼ばれる盛り上がりがある.今回観測された地下の層構造は,このリッジでも地形面と平行になっていることが分かった.つまり,28.4億年前に表面の溶岩が噴出した後にリッジが形成されたことになる.
 このことから,リッジは月が冷却したために収縮して出来た「皺」と考えられる.

 今回の「かぐや」の成果は月の進化史の見直しにつながる可能性がある.

<参考 URL>

 http://www.jaxa.jp/http://www.kaguya.jaxa.jp/

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石の上にも五十年 一鉱床学者の閑話36話2009/06/16 23:10

島崎英彦,石の上にも五十年 一鉱床学者の閑話36話.2009,明文書房.

 島崎氏は1939(昭和14)年生まれの鉱床学者で,東京大学理学部地質学教室の第三講座(鉱床学)を担当し,1999(平成11)年に退職した後,北京の中国科学院地質与地球物理研究所に勤務した.
 この本は,島崎氏が友人の勧めで書き始めた文章を集めたものであるが,偉大な地質学者の面影を伝えているという点で貴重な記録となっている.話題が豊富である上に1話が6ページで,ちょっと頑張れば一気に読み通せる長さであるのも良い.

 新鉱物発見物語は,学生時代から助手時代の話で,良い先生,先輩に恵まれて研究生活をスタートさせた時のものである.
 鉱床学の渡邊武男先生,火山学の権威であった久野 久先生と変成岩の研究で世界をリードした都城秋穂先生の話は貴重な記録であり,当時の雰囲気が伝わってきて大変面白い.
 中国の話は,島崎氏が1999年から2003年まで合計4年間,鉱床探査のための重点実験室新設プロジェクトに関わった時の話が中心である.雑感とあるように,中国での車の運転の話,麻雀の話,童謡「里の秋」は中国の歌だと言って譲らない中国人の話,などなどである.
 『「騎馬民族国家論争」を読んで』では,韓国語と日本語の文法が酷似している理由が述べられているほか,西暦663年の白村江(はくすきのえ)の戦いの原因を述べている.非常に説得力がある話である.白村江の戦い,秀吉の朝鮮出兵,西郷隆盛の征韓論など,なぜ韓半島にこだわるのか不思議である.

 終章では『「するべき程の事はしつ」と言いたいところだ』と述べられているが,70才を機に新たな人生を歩まれて欲しいと思う.

 目次は次のようになっている.

 はじめに
1.新鉱物発見物語(1) 都茂鉱(つもこう)
2.新鉱物発見物語(2) 定永閃石(さだながせんせき)
3.新鉱物発見物語(3) 張培善石(ちょうばいぜんせき)
4.幻の新鉱物
5.幻の新鉱物 つづき
6.立見辰雄先生 その話はまだ早い
7.恩師渡邊武男先生
8.無名会と櫻井先生
9.鉱物コレクション始末記
10.兼平さんと津末さん
11.加藤 昭さん
12.岩石学講座(1) 久野 久先生
13.岩石学講座(2) 都城先生のことなど
14.“私が本当に興奮した時”
15.中国語あれこれ(1)
16.中国語あれこれ(2)
17.中国語あれこれ(3)
18.韓国語と日本語(1)
19.韓国語と日本語(2)
20.古代辰砂の故郷
21.新鉱物は産業廃棄物?
22.中国雑感(1)
23.中国雑感(2)
24.中国雑感(3)
25.中国雑感(4)
26.「騎馬民族国家」論争を読んで
27.耳寄りな?話(1)
28.耳寄りな?話(2)
29.近頃腹の立つこと
30.幼い頃の思い出
31.胃炎に苦しむ
32.高校時代(1)
33.高校時代(2)
34.高校時代(3)
35.父母の死
36.終 章

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札幌岳2009/06/22 18:33

札幌岳頂上の安山岩と恵庭岳(中央奥で一部雲に隠れている)
 札幌岳は札幌市街からよく見える山で,三角形の山頂と深く切れ込んだ谷が特徴である.標高は1293.0m で,それほど高くないが標高1,200mを過ぎたあたりからハイマツが目立つようになる.手稲山(標高1023.1m)の山頂付近にも昔はハイマツが生えていたという話があるが,今は見られないようだ.
 登山口は定山渓温泉市街を過ぎた最初の信号を左に入り,定山渓温泉を左に見ながら,「定山渓自然の村」に行かずに広い道路を左に行くと右カーブの所に駐車場がある.入林名簿も備えられている.

 登山道は冷水沢川に沿って登っていく.トドマツの植林地で中にはかなりの樹齢のものもある.しばら行くと沢の中に岩が露出し対岸に露頭が見える.豊平峡ダムのダムサイト付近に分布しているハイアロクラスタイトと同じものであろう.ただし,定山渓図幅では,この付近の沢は標高570m 付近まで 石英斑岩の分布域となっている.
 冷水沢川の右岸の登山道は2度ほど沢を渡る.2度目の横断点付近から地形は緩やかになる.この緩やかな地形は札幌岳基底溶岩の分布域と一致している.
 道の脇には紫色のスミレ,白い小さな花を付けたマイズルソウなどが咲いている.ゆっくり歩いて1時間ほどで林道を横断する.

 この林道は登山道入口向かって左側の林道の続きである.車の轍のある立派な林道である.豊平峡ダムの冷水トンネルと豊平峡トンネルの間を流れる沢付近まで通じているようである.

 林道からしばらくは,なだらかな道が続くが,しばらくすると沢の右岸を高巻きする.この途中に塊状安山岩の露頭がある.10cm ほどの間隔で節理が発達しており陸上溶岩と考えられる.定山渓図幅ではこの付近から札幌岳溶岩の分布域となる.
 この付近から斜面の傾斜がきつくなる.標高は750m 前後である. 再び沢に降りて,沢を渡り,左岸の斜面の途中を這うように道は続く.しばらくすると赤い屋根の冷水小屋が見えてくる.

 冷水小屋付近には白い五弁の花を付けニンジンのような葉を持ったニリンソウ(フクベラ)が群生している.この花は,夕方になると花が半分閉じたようになりスズランのような丸い形になる.何ともかわいらしい風情を示す.また,シラネアオイ,オオバナエンレイソウ,ツツジに似た赤い花も時々見かける.
 冷水小屋は沢の合流点付近にある.向かって左の沢に流水があり右の沢はほとんど水が流れていない.小屋の裏に回り,この二つの沢の間に張り出した尾根を登っていく.ここからが急登になる.

 冷水小屋の標高はほぼ850mで急登は標高1020m 付近まで標高差約170m 続く.この尾根道のところどころに石英安山岩質岩の露頭が見られる.白灰色で縦亀裂が発達し高巻きの所に出ているものと岩質はそっくりである.
 この急登の途中で後ろを振り返ると木々の間から無意根山や喜茂別岳が見える.一度傾斜は緩くなるが標高940m 付近から 再び急な斜面となる.この付近に露出する安山岩は黒色の輝石安山岩で明らかに岩質は異なってくる.クリンカー状のレンガ色をした火山角礫岩状の露頭もある.
 
 急登部を過ぎると道は西に向いた斜面の途中を緩く登り下りしながら続いていく.急登の後ではこの斜面途中の道が結構きつい.標高1020m 付近で平坦面に出る.

 札幌の西の山地は,余市岳,朝里岳,手稲山,札幌岳,空沼岳など標高1000m 程度の平坦面を持っている.これらの平坦面は平坦溶岩と呼ばれる安山岩で構成されている.この溶岩をキャップロックとして手稲山や空沼岳の東斜面に大規模な地すべりが発生している.札幌岳の東斜面には大規模地すべりは見られないが,沢が深く切れ込んで大量の土砂が豊滝の沢(盤の沢川・滝の沢川)を埋めている.
 
 クマザサの中の平坦な道を通り最後の登りにさしかかる.登山道は表流水でぐちゃぐちゃであるが意外に滑らない.標高1200m 付近からハイマツの群落が目立ち始め,シラカバは消えてダケカンバとなる.ヤマザクラが遅い花を咲かせている.

 頂上からの眺めは素晴らしい.この日は札幌市街方面に雲が出ていて見ることが出来なかったが,空沼岳,恵庭岳,漁岳,尻別岳,羊蹄山,喜茂別岳,無意根山,八剣山,藻岩山などぐるりと見渡すことが出来る.
 途中,休み休みゆっくり登って約4時間.この眺めに満足である.

 帰りはちょっととへばってしまい,登山口まで3時間半かかった.それほど厳しいと感じないが,かなり足に負担のかかる不思議な山である.

【END】