赤祖父俊一氏 札幌で講演2009/02/19 22:17

赤祖父俊一氏
赤祖父氏・福岡氏 講演会

 平成21年2月9日13時から16時までホテルニューオオタニ札幌で(財)北海道河川防災研究センターの講演会が開かれた.
 講演者は前アラスカ大学国際北極圏研究センター所長 赤祖父俊一氏と中央大学研究開発機構教授 福岡捷二氏で,パネルディスカッションのコーディネーターは北海道河川砂防研究センター会長 丹保憲仁氏であった.

 赤祖父氏の結論は「地球温暖化の原因が何かと言うことについては,分からないことが多すぎる.純学問的な議論に戻して検討する必要がある.」ということである.
 話の要点は次のようである.
 現在は江戸時代の小氷期からの回復過程にあり,1800年から現在まで準周期的変動を交えながら0.5℃/100年の割合で気温が上昇している.IPCC は 炭酸ガスによる温暖化の速度は0.6℃/100年としているが,このうちの5/6は自然変動によると考えられる.
 さらに,現在太平洋の海水温が低下しており,気温変動も2007年頃から低下傾向にある.この現象は,大気中の炭酸ガスの急激な増加では説明できない.10年くらい基礎的な研究を行って炭酸ガスの寄与率を明らかにし対策を立てることが賢明である.
(赤祖父俊一,2008,正しく知る地球温暖化 謝った地球温暖化論に惑わされないために.誠文堂新光社.参照)

 福岡氏の話は,気候温暖化を見込んで水災害-洪水・土石流など-に対する対策を検討する必要があるというものである.
 これまでは台風や前線の活動におる大雨で被害が発生していたが,最近は局地的大雨や集中豪雨による被害が増大している.統計的にも集中豪雨が増加していることが示せる.このことは,現在計画されている治水対策の根拠となっている確率雨量では対応しきれない可能性を示している.つまり,これまでの降水量から年最大日降水量を1/100で計画しても,将来は1/70になってしまう.
 このような気候変動への対応としては,温暖化防止に寄与する「緩和策」と施設や地域づくりなどによる「適応策」の二つがある.適応策の一つの例としては,小貝川と大谷川が合流する付近に遊水地作り家屋は集約して治水対策を行うという母子島(はこじま)遊水地がある(http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/river/00tkindx.htm の小貝川参照).

 このあと,丹保会長の司会でパネルディスカッションとなった.

 講演内容に補足することとしてそれぞれ次のような発言があった.
 赤祖父氏は,温暖化に対する対応は必要であるが,気候変動の原因が変われば対応も変わってくる.限られた予算をどう使うかを真剣に考える必要がある.
 福岡氏は,政策決定の根拠は必要である.また,シミュレーションの限界も十分認識して解析内容の吟味が必要である.

 丹保氏は,地球に対する理解は進歩している.その中で食料とエネルギー,水資源不足が大きな問題となる.地球が養える人口には限界があり,いずれこれを突破することは間違いない.近代文明の終焉と言うことも考えられる.

 会場から,本当に雨の降り方が激しくなっているのかという質問が出た.
 福岡氏は,長期データを見ると全国109水系で以前のデータと異なる傾向が出ている,流域の取り方や観測方法,雨の降り方の再検討が必要であると言う.
 赤祖父氏は,地球規模で見ると北極圏の温暖化が激しく気温が平均化されていて台風は少なくなっているとされている,地域的には人間活動が,かなり効いていて東京では4〜6℃気温が上昇していると言う.
 丹保氏は,大都市では局地的な対流が発生していて,ヨーロッパでも局地豪雨が増えている.

 また,炭酸ガスの温暖化に対する寄与が1/6だとすると日本で炭酸ガスの排出を削減してどの程度の効果があるのかという質問が出た.
 赤祖父氏は,温暖化しているのは事実である,省エネルギーに力を入れれば炭酸ガスの減少に繋がるという.
 福岡氏は,これまで築き上げてきた日本の適応策がアジアに対する貢献になると言う.

 流出抑制策として面積の流域の90%を占めている上流域の総合的な対策が必要ではないかという質問が出た.
 福岡氏は,市街地を形成している氾濫域には氾濫させない,上・中流で水を貯める,土砂のコントロールをすると言った総合的な流域対策が必要であると強調した.

 なお,地球温暖化については,エネルギー・資源学会の2009年「新春 e-mail 討論 地球温暖化:その真実を問う」が興味深い.赤祖父俊一氏,伊藤公紀氏,江守正多氏,草野完也氏,丸山茂徳氏が登場している.(http://www.jser.gr.jp/ これについては,中林一氏に教えて貰った.)

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北海道開発技術研究発表会2009/02/27 21:25

発表会会場の札幌コンベンションセンター
北海道開発技術研究発表会

 標記発表会が札幌コンベンションセンター(札幌市東札幌)で2月25日と26日の二日間開かれた.
 久しぶりに聞きに行ったが,発表内容がかなり変わっていたのが印象的であった.切土,盛土,トンネル,橋梁と言った土木工事に関する発表が少なく,安全,環境と言ったテーマに関わる内容が主流であった.
 トンネルについては,国道275号の幌加内トンネル(蛇紋岩地山),国道12号旭川トンネル(現国道の下を低土被りで通過)の発表くらいであった.その他,国道12号登別拡幅事業の虎杖浜改良工事では,現虎杖浜トンネルを放棄してトンネル区間を切土で通過すると言う.そのために,高度技術提案型入札を行ったという報告であった.

 もう一つ印象的であったのは,若い人が多いと言うことである.土木学会の講演会などに行っても,技術士会の講演会でも,年配の方が多くそれはそれでまた良いのだけれど,これだけ若い人が研究発表を行えるだけの技術的な力量を持っていることに希望を見た.

 発表件数は指定課題4件,自由課題210件で最も多いのは技術一般の71件,次いで環境46件,安全31件,コスト26件,その他である.

 いろいろ興味深い発表があったが,「総合評価落札方式の評価における AHP(階層分析法)の適用について」というのを興味深く聞いた.
 AHP(Analytic Hierarchy Process) は意志決定手法の一つで,人間の主観的判断とシステムアプローチとの両面からどれを選ぶかを決定する方法である.この方法の特徴は「一対比較」を評価基準や代替案の全てに対して行うことであろう.これにより主観的評価が数値化される.
 この方法で,総合評価落札方式の評価を行ったところ,実際の評価と矛盾しない結果が得られたと言うことである.実際の評価はエクセルを使って出来るが,入札業者が多くなったり評価項目が多くなるとかなりの時間を要すると言う.しかし,少なくとも現在行われている,1)数値評価(項目ごとの点数による評価方式),2)段階評価(優良可のような評価・判定方式),3)順位付けによる評価,よりも技術提案の差を細かく評価できる利点がある.

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